先日、「食品表示基準と実務上の大切なポイント」と題した外部講演にて、食品表示基準全体の概要(基準、通知、ガイドライン等)や構造(横断的、個別的等)について把握することの大切さをお伝えしました。その際に、「知らなくてもなんとなくできてしまう」業務の難しさについて触れましたが、この場を借りてもう少しお伝えしたいと思います。以下に、先日発売された「新訂2版 基礎からわかる食品表示の法律・実務ガイドブック」より関連する部分を引用いたします。
『予定されている商品パッケージや販売方法を知らなくても、食品表示の作成自体はできてしまう』(第3部第1章)
ここで初めてパッケージデザイン案に書いてある商品特徴の表示「こだわりの〇〇県産原料使用!〇〇の栄養が豊富で、天然志向だから美容によい!」を見て、びっくりして社長に進言することになるでしょう。原材料を変更するか、パッケージデザインの商品特徴の表示を変更するか、どちらかを検討する必要があると。「販売日も目前に迫っているこの状況で今さら」、と社長は怒るかもしれません。しかし怒られること以上に困るのは、ここで社長が決断を誤る可能性があることです。社長の誤った決断とは、「今さら原材料もパッケージデザインも修正できないからそのまま販売してしまう」ということです。そしてあなたにとっての誤った決断があるとすれば、その可能性に気付きながら何もしないことでしょう。
『チェックのほうが難しい』(第3部第2章)
作成は1 つ1 つの事実を積み上げていく作業であるのに対し、チェックとは1 つ1 つの要素に分解していく作業に似ています。作成の仕事は作業者が意思決定を積み上げることであるのに対し、チェックは少し異なってきます。チェックとは、自分が作成していない食品表示を確認することですので、その食品表示がどのような意図をもって積み上げられたのかといった経緯までは持ち合わせていません。そこで、作成者の意図について仮説を立てるなど、想像を広げる必要があります。この点で、チェック作業は、作成よりも難しいといえます。作成は1 点を目指して仕事を進めるのに対し、チェックは様々な可能性まで追求する仕事の進め方をしなければならないためです。
前者の例は、本来は食品表示を作成する前に商品企画の概要を把握しておくことで、事前に強調表示に関する基準や根拠を調べておくことができる、という内容の説明です。実際には様々な事情により、事前に情報が入手できない場合も多く、企画の概要情報がなくてもできてしまうのですが、本来はそうであると考えておくことが大切だと思います。
後者は原則のような話です。作成者の意図を伏せた状態での客観的なチェックが有効な場面は多いですし、また意図に縛られずマニュアルに沿って機械的に確認することも重要ですので、ともかくチェックできてしまうことになるのですが、本来は「チェックは難しいものである」と考えておくことが大切だと思います。
「なんとなくできてしまっていること」は、他の仕事でも同じようなことが言えるかもしれません。リスクがあるなどの面もそうですが、とりわけ言語化や仕組化を必要としないままできてしまっているものについては、組織的な改善の機会が失われていないかを考える必要があると思います(言語化や仕組化がされている場合も、定期的な見直しは大切ですが)。
私も今回の新訂2版の原稿を加筆修正するにあたり、これまでの経験や慣れでできている業務について、しっかり基本から見直していくことが大切だとあらためて思いましたので、講演や本稿で皆様にもお伝えしていきたいと思います。
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関連サービス
【国産食品(国内流通)】食品表示調査:配合表、製品規格書等をもとに、原材料名や栄養成分等の食品表示案との適合性を検証します。各方面からの原材料詳細や表示内容の確認などの対応業務をサポートします。新商品や改版の確認業務、膨大な規格書情報の確認業務にご利用いただいております。
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川合 裕之
■職歴・経歴
1974年 岡山県生まれ
食品メーカー勤務後、2003年に食品安全研究所(現株式会社ラベルバンク)を設立。
「分かりやすい食品表示」をテーマとし、「食品表示検査・原材料調査」などの品質情報管理サービスを国内から海外まで提供しています。また、定期的に講演活動も行っています。
■主な著作物・寄稿ほか
【共著】
『新訂2版 基礎からわかる食品表示の法律・実務ガイドブック』 (第一法規株式会社, 2023)
【寄稿】
・2024年 第65巻 第4号 『食品衛生学雑誌』(公益社団法人日本食品衛生学会)「海外輸出向け食品における各国基準(添加物、栄養成分表示)の調査と実務上の課題」
・2021年10月『Wellness Monthly Report』(Wellness Daily News)40号
「食品表示関連規則の改正状況 今後の『食品表示』実務上のポイント」
・2020年2月『月刊 HACCP』(株式会社鶏卵肉情報センター)「アレルゲン表示の現状と留意点」
・2017年~2018年連載 『食品と開発』(UBMジャパン)「表示ミスを防ぐための食品表示実務の大切なポイント~」
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【講義】
・2009~2014年 東京農業大学生物産業学部 特別講師
■最近の講演・セミナー実績
・2024年4月11日 “低糖質、〇〇不使用、植物由来、機能性等” 健康に関する食品の輸入および輸出時の表示確認の実務について
アヌーガ・セレクト・ジャパン様主催。
・2023年12月21日 輸出食品における各国基準(添加物および食品表示等)調査と実務上のポイント
一般財団法人食品産業センター様主催。
・2023年11月9日 食品表示基準と実務上の大切なポイント~保健事項、衛生事項を中心に~
千代田保健所様主催。
・2023年11月8日 添加物の不使用表示について
株式会社インフォマート様主催。
・2023年10月12日~13日 海外輸出向け食品の表示(添加物、栄養成分等)について
公益社団法人日本食品衛生学会様主催。
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