2020年4月24日、消費者庁は「栄養素等表示基準値の改定に関する調査事業 報告書(以下「報告書」)」を公表しました。また1ヶ月前の3月27日に、食品表示基準、食品表示基準について(通知)、食品表示基準Q&Aがそれぞれ改正されておりますが、新しいニュースではない点をご了承ください。
【ポイント】
- 2019年12月に「日本人の食事摂取基準(2020年版)」の策定検討について報告され、その後、厚生労働省より公表されました。
- 食品表示基準の「栄養素等表示基準値」は「日本人の食事摂取基準(2015年版)」を基に設定されています。
- 消費者庁は「栄養素等表示基準値」等の見直しに関する検討を行い、結果、改定は行わないことになりました。
検討の背景
栄養素等表示基準値※は、栄養強調表示や栄養機能食品の表示をする際に基礎となっているものです。改定が検討された背景については 「報告書」に整理されています。
食品表示基準(平成27年内閣府令第10号)に規定している栄養素等表示基準値は、厚生労働省策定の「日本人の食事摂取基準(以下「食事摂取基準」という。)(2015年版)」に基づき設定している。食事摂取基準に示された栄養素について、当該食事摂取基準を性及び年齢階級(18歳以上に限る。)ごとの人口により加重平均した値であり、食品に関する表示を行う際に用いる基準値として設定したものである。
厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2020年版)」策定検討会において、食事摂取基準の改定が検討され、平成31年3月22 日の第6回検討会を経て、食事摂取基準(2020年版)が公表された。
栄養素等表示基準値については、食事摂取基準の改定箇所等を踏まえ、栄養機能食品の1日当たりの摂取目安量に含まれる機能に関する表示を行っている栄養成分の量の下限値及び上限値の一部並びに栄養強調表示の基準値の一部の設定の基礎となっている。
このため、本事業は、食事摂取基準(2020年版)の公表を踏まえ、栄養素等表示基準値等の見直しに関する検討を行うことを目的とした。
※「食品表示基準について(通知)」において、「栄養素等表示基準値とは、表示を目的として、食事摂取基準の基準値を日本人の人口に基づき加重平均したものであり、必ずしも個人が目指すべき1日当たりの栄養素等摂取量を示すものではない。」と記載されています。
検討結果
「報告書」では、以下のとおり検討の結果について整理されています。
- 食事摂取基準(2020年版)に基づく栄養素等表示基準値の改定は行わない。
- ただし、その論拠を報告書に明記するとともに、国民の食品によるビタミンD※の摂取状況等を把握した上で、慎重に改定要否を検討する。
※栄養素等表示基準値の現行値と暫定値(食事摂取基準(2020年版)及び最新の人口推計値を用いて算出)を比較し、ビタミンDは差異が50%以上であったため、特に優先検討項目とされました。
また、栄養素等表示基準値の改定は行わないこととされたため、栄養機能食品に含まれる栄養成分量の下限値及び上限値並びに栄養強調表示の基準値の改定についても、行わないこととされました。
なお改定年次の表示については、検討委員より以下の指摘があったことが報告されています。
- 事業者がどの時点の栄養素等表示基準値を参照して記載しているのか明確化し、消費者にその情報を伝えるためにも、栄養素等表示基準値の改定年次の表記が必要ではないか。
- 栄養素等表示基準値の改定が行われなかった場合であっても、検討の結果、改定を行わない旨の判断がなされている。そのため、結果として改定が行われない場合であっても参照すべき年次の表記を行うことが必要ではないか。
「食品表示基準について」の改正内容
これを受け、2020年3月27日に「食品表示基準について(通知)」が改正されました。栄養機能食品の表示に関する点を、「食品表示基準について 第十九次改正 新旧対照表」より以下に抜粋します。(改正により、右側下線部分が削除されています。「食事摂取基準(2015年版)」の記載を消すことで、2015年版、2020年版等の混乱をなくす意図と思われます。)
新 | 旧 |
---|---|
「栄養素等表示基準値の対象年齢及び基準熱量に関する文言」とは、「栄養素等表示基準値(18歳以上、基準熱量2,200kcal)」その他これに類する文言とする。
必要的表示事項である栄養素等表示基準値に対する割合、栄養素等表示基準値の対象年齢及び基準熱量に関する文言を表示した上で、小児や月経ありの女性等、特定の性・年齢階級を対象とした食事摂取基準を任意で表示することは差し支えない。その場合、出典を明記すること。 |
「栄養素等表示基準値の対象年齢及び基準熱量に関する文言」とは、「栄養素等表示基準値(18歳以上、基準熱量2,200kcal)」その他これに類する文言とする。
食品表示基準に基づき栄養素等表示基準値に関する表示をする場合、栄養表示基準との差別化を図るため、「栄養素等表示基準値(2015)」等、日本人の食事摂取基準(2015年版)を基にしていることが分かるような表示とすることが望ましい。 必要的表示事項である栄養素等表示基準値に対する割合、栄養素等表示基準値の対象年齢及び基準熱量に関する文言を表示した上で、小児や月経ありの女性等、特定の性・年齢階級を対象とした食事摂取基準を任意で表示することは差し支えない。その場合、出典を明記すること。 |
その他、食品表示基準においては「栄養成分又は熱量の適切な摂取ができる旨」についても改正があり、低い旨の表示は「基準値に満たない場合にすることができる」から「基準値以下である場合にすることができる」ことに変わっています。
しばらくは当コラムでも新型コロナウイルス感染症関連のニュースを優先して掲載しておりましたが、3月27日の改正について確認されていない方は、一度目を通しておかれるとよいと思います。
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川合 裕之
■職歴・経歴
1974年 岡山県生まれ
食品メーカー勤務後、2003年に食品安全研究所(現株式会社ラベルバンク)を設立。
「分かりやすい食品表示」をテーマとし、「食品表示検査・原材料調査」などの品質情報管理サービスを国内から海外まで提供しています。また、定期的に講演活動も行っています。
■主な著作物・寄稿ほか
【共著】
『新訂2版 基礎からわかる食品表示の法律・実務ガイドブック』 (第一法規株式会社, 2023)
【寄稿】
・2024年 第65巻 第4号 『食品衛生学雑誌』(公益社団法人日本食品衛生学会)「海外輸出向け食品における各国基準(添加物、栄養成分表示)の調査と実務上の課題」
・2021年10月『Wellness Monthly Report』(Wellness Daily News)40号
「食品表示関連規則の改正状況 今後の『食品表示』実務上のポイント」
・2020年2月『月刊 HACCP』(株式会社鶏卵肉情報センター)「アレルゲン表示の現状と留意点」
・2017年~2018年連載 『食品と開発』(UBMジャパン)「表示ミスを防ぐための食品表示実務の大切なポイント~」
>> 寄稿の詳細はこちら
【講義】
・2009~2014年 東京農業大学生物産業学部 特別講師
■最近の講演・セミナー実績
・2024年4月11日 “低糖質、〇〇不使用、植物由来、機能性等” 健康に関する食品の輸入および輸出時の表示確認の実務について
アヌーガ・セレクト・ジャパン様主催。
・2023年12月21日 輸出食品における各国基準(添加物および食品表示等)調査と実務上のポイント
一般財団法人食品産業センター様主催。
・2023年11月9日 食品表示基準と実務上の大切なポイント~保健事項、衛生事項を中心に~
千代田保健所様主催。
・2023年11月8日 添加物の不使用表示について
株式会社インフォマート様主催。
・2023年10月12日~13日 海外輸出向け食品の表示(添加物、栄養成分等)について
公益社団法人日本食品衛生学会様主催。
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