日本の「健康」に関する食品表示制度について~台湾は2022年7月より一般食品の商品名に「健康」の表示が禁止に~

By | 2020年11月6日


 少し前になりますが、今年8月に興味深いニュースが台湾にて発表されました。台湾衛生福利部食品薬物管理署(Taiwan Food and Drug Administration: TFDA)の発表によると、「一般食品の商品名に“健康”と表示することは禁止」されることになるようです。施行は2022年7月1日からです。以下に発表の本文を引用します。

 TFDAは、消費者が「健康」という強調表示をされた食品について、消費者に商品がより健康的なイメージを誤解することを防ぐために、「食品および関連商品において、誤解または医薬品的効能効果を標ぼうするなど事実でない、または誇張される広告表示の認定基準」の第4および第6の規定を修正すると発表しました。
 修正後、検査および登録され、または免許を取得した健康食品を除いて、消費者に一般食品と誤解されることを避けるために、商品名の一部としても「健康」という言葉を使用してはならないことを規定しています。
 TFDAは、この規制が2022年7月1日以降製造される製品分から有効になるため、今後上記規定を満たしていないと判明した場合は、食品安全衛生管理法第28条および同条に違反するとみなし、第45条の法令より台湾ドル4万から400万の罰金を科します。
同法の第52条によって、包装食品は期限内に回収および修正されるものとします。

出典:台湾衛生福利部食品薬物管理署(TFDA)(日本語訳は弊社による)

 台湾には「健康食品管理制度」があり、TFDAの認可(個別審査または規格基準審査)を受けた食品を「健康食品」と呼びます。ちょうど、日本の「トクホ(特定保健用食品)」にあたると考えると分かりやすいと思います。(※ただし日本ではトクホなどの保健機能食品ではない健康食品を「いわゆる健康食品」と呼びます。)
 そして台湾における一般食品とは、「(TFDAに)健康食品として認可を得たものではない食品」を指します。つまり今回の発表を日本に当てはめてイメージするとすれば、「トクホなど保健機能食品ではない食品の商品名の一部に“健康”と表示してはならない」ということになるでしょう。

 日本では、食品に単に“健康”と表示をすることへの規制は現時点ではありません。ただし保健機能食品以外の一般食品には、「保健機能食品と紛らわしい名称、栄養成分の機能及び特定の保健の目的が期待できる旨を示す用語」を表示することが禁止されています。つまり日本では、一般食品の商品名に「保健」や「機能」などの用語を使用することができないようになっています。

 分かりやすくするために、日本の“健康”に関する表示制度について、“保健機能”と“栄養成分の強調”に関する表示基準を整理してみました。(※食品表示基準を対象とします。実際に“健康”に関する表示をする際には、景品表示法や健康増進法等の規則にも注意が必要です。)

◆ 日本の“保健機能”に関する表示基準について

食品名大分類 食品名中分類 審査等の必要性 表示事項等
保健機能食品 特定保健用食品※1 必要(個別許可型、規格基準型) 許可等を受けた表示(「特定の保健の目的が期待できる旨」)の内容のとおり表示。
機能性表示食品 必要(届出型) 消費者庁長官に届け出た内容(「科学的根拠を有する機能性関与成分及び当該成分又は当該成分を含有する食品が有する機能性」)を表示。ただし「機能性関与成分以外の成分を強調する用語※2」や「栄養成分の機能を示す用語」等は禁止。
栄養機能食品 不要(規格基準型) 別表に定められた「栄養機能食品に係る栄養成分の機能」を表示。ただし「特定の保健の目的が期待できる旨を示す用語」等は禁止。
一般食品 分類名なし(いわゆる健康食品) 不要 「保健機能食品と紛らわしい名称、栄養成分の機能及び特定の保健の目的が期待できる旨を示す用語」等は禁止。
※1.別制度である「特別用途食品」(病者用食品等)の一部に位置づけられます。
※2.以下の「栄養成分の補給ができる旨」「栄養成分又は熱量の適切な摂取ができる旨」の表示をする場合を除く。そのため「糖質」など以下に設定のない成分を強調する用語は不可。

◆ 日本の栄養成分の強調に関する表示基準について
(審査等は不要。表示値設定の根拠資料の保管が必要。)

表示事項 規定の分類
栄養成分の補給ができる旨 高い旨(例:「高○○」「○○豊富」等)
含む旨(例:「○○源」「○○含有」等)
強化された旨(例:「○○30%アップ」等)
栄養成分又は熱量の適切な摂取ができる旨 含まない旨(例:「無○○」「○○ゼロ」等)
低い旨(例:「低○○」「○○ひかえめ」等)
低減された旨(例:「○○30%カット」等)
糖類を添加していない旨 -(例:「糖類無添加」「砂糖不使用」等)ただし「ノンシュガー」、「シュガーレス」のような表示は、「含まない旨」の規定が適用される。
ナトリウム塩を添加していない旨 -(例:「食塩無添加」「食塩不使用」等)

 日本では、上記のように審査や届け出を必要としない一般食品であっても基準を満たす場合、“栄養成分の機能”もしくは“栄養成分の強調”を表示することは可能です。しかしながら、こうした商品を台湾に輸出する際には、台湾での許可を得ない限りは、商品名の一部に「健康」といった用語は表示できないということになります。

 日本から海外に食品を輸出する際も、また反対に海外から日本に食品を輸入する際にも、その食品に“健康”や“栄養”などの強調表示がある場合には、こうした関連規則の有無を事前に確認することが大切です。また“健康”に関する表示もさらに広義に見れば、「オーガニック(有機)」や「グルテンフリー」、「無添加」などの表示についても各国に規則や基準があることが分かります。(※日本にはノングルテン米粉を除き基準値の設定はなく、現時点でグルテンフリーに関する公式な表示基準はありません。)
 こうした規則を確認する際には、可能な表示例や対象成分(ビタミンやミネラル等)だけでなく、「表示禁止事項(例:ただし「〇〇」とは表示できない等)」についてもあわせて確認されるとよいでしょう。

 今回は台湾のニュースを取り上げましたが、こうした傾向は他国でも起こり得ると思われます。健康に関する表示をした食品を取り扱われる方は、この機会に様々な国の動向を見ておかれるとよいのではと思います。


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川合 裕之

代表取締役社長株式会社ラベルバンク
食品表示検査業をしています。国内と海外向けに、食品表示検査と原材料調査サービスを提供している経験をもとに、食品表示実務に関する講演をしています。

■職歴・経歴
1974年 岡山県生まれ
食品メーカー勤務後、2003年に食品安全研究所(現株式会社ラベルバンク)を設立。
「分かりやすい食品表示」をテーマとし、「食品表示検査・原材料調査」などの品質情報管理サービスを国内から海外まで提供しています。また、定期的に講演活動も行っています。

■主な著作物・寄稿ほか
【共著】
『新訂2版 基礎からわかる食品表示の法律・実務ガイドブック』 (第一法規株式会社, 2023)

【寄稿】
・2024年 第65巻 第4号 『食品衛生学雑誌』(公益社団法人日本食品衛生学会)「海外輸出向け食品における各国基準(添加物、栄養成分表示)の調査と実務上の課題」
・2021年10月『Wellness Monthly Report』(Wellness Daily News)40号
「食品表示関連規則の改正状況 今後の『食品表示』実務上のポイント」
・2020年2月『月刊 HACCP』(株式会社鶏卵肉情報センター)「アレルゲン表示の現状と留意点」
・2017年~2018年連載 『食品と開発』(UBMジャパン)「表示ミスを防ぐための食品表示実務の大切なポイント~」

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【講義】
・2009~2014年 東京農業大学生物産業学部 特別講師

■最近の講演・セミナー実績
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