食品表示に関する業務に関わっていない方でも、アレルギー表示の重要性についてご存知の方は多いでしょう。
食品表示を実際に作る担当者はもちろん、通販カタログやECサイトでアレルギー表示を記載する上で、その重要性を把握することも業務の役に立つはずです。今回は、アレルギー表示についての業務上の注意点を解説します。
「安全性のための表示」であることの再認識を
アレルギー表示は、単に「間違いのない表示を作ればよい」というわけではありません。
本質的に重要なことは、「食べても大丈夫かどうか」を考えて、表示を作っているかということです。
アレルギー表示は、正しい表示方法で記載する義務に加えて、表示と実際の情報が間違いなく対応していることを確認する責任があります。表示と実際の情報が正確に対応していなかった場合、消費者に下記のような事故が起きる可能性があります。
- 食前にアレルギー表示を確認したにも関わらず、想定していなかったアレルギー反応が突然起きる
- 重症の際はアナフィラキシーショックを起こし、呼吸困難、意識障害を誘発する
- 死に至る可能性もある
アレルギー表示に基づく事故は、食品に携わる事業者にとって最も大きな問題といえます。
しかし、アレルギーは実際に経験しているか、もしくはそうした人が身内にいなければ、事故を具体的にイメージすることは難しいかもしれません。きちんとアレルギーの方の実情に目を向けながら、アレルギー表示の重要性を考えることが重要です。
表示対象27品目とその理由を知っておくこと
どの原材料をアレルギーとして表示する必要があるのか、まとめてみましょう。基本的には下記の27品目が表示の対象(特定原材料等)とされています。しっかり覚えておきましょう。
義務(7品目) 「特定原材料」 |
えび、かに、小麦、そば、卵、乳、落花生 |
---|---|
推奨(20品目) 「特定原材料に準ずるもの」 |
あわび、いか、いくら、オレンジ、カシューナッツ、キウイフルーツ、 牛肉、くるみ、ごま、さけ、さば、大豆、鶏肉、バナナ、豚肉、まつたけ、 もも、やまいも、りんご、ゼラチン |
「27品目はもちろん知っていますよ」という事業者にも、改めて考えていただきたいことがあります。
それは、「なぜその原材料が表示対象とされているのか」ということです。
消費者庁の資料(アレルギー物質を含む加工食品の表示ハンドブック)によると、次のようにまとめることができます。
「アレルギーの原因植物」うち義務7品目を抜粋(平成23?24年度 消費者庁調査)
症例数が多いもの | 卵(39.0%)、乳(21.8%)、小麦(11.7%) |
---|---|
重篤度が高いもの | 落花生(5.1%)、そば(2.2%) |
成人期での発症や誤食が多いもの | えび(2.7%)、かに(0.6%) |
資料によると、何らかの食物アレルギーを持っている人の割合は、日本の全人口の1?2%(乳児に限定すると約10%)と考えられます。間違いのない食品表示を作るためだけであれば、このようなことは知らなくてもよいかもしれません。しかし、アレルギー表示を「安全性確保のためのもの」と考えると、それぞれの原材料が持つ特性(症例数や重篤度など)を知っておくことが、事故を未然に防ぐために大切なのです。
使用しているかではなく「含まれているか」で表示
実際にアレルギー表示を作る上での注意点をまとめます。
- ・原材料名の表示項目 → 「使用した」ものを記載
- ・添加物とアレルギー → 「含む」ものを記載
たとえば「レシピに牛乳を使っていない」=「食品全体に乳成分が含まれない」とはなりません。
乳成分がその他の二次原材料に含まれる場合や、添加物に含まれる場合があるためです。
つまり手元のレシピを見て使用しているかどうかで表示を決めるのではなく、実際に含まれているかどうかで表示を決める必要があります。アレルギーの表示は、「数μg/g, 数μg/ml含有レベル以上の特定原材料等の総タンパク量を含有する食品(「アレルギー物質を含む加工食品の表示ハンドブック
」には必要となります。
どうやってそんな詳細な情報を確認すればよいのでしょうか。
ここで必要になるのが、「原材料規格書」です。
仕入元から取り寄せた原材料規格書の確認するポイントを、下記にまとめておきます。
【原材料規格書から「アレルゲンは含まれないか」を確認するポイント】
- 複合原材料に注意。詳細な二次原料を確認する。
- 複合原材料の省略に注意。複合原材料のうち「その他」と表示される原材料を確認する。
- 添加物の省略に注意。キャリーオーバーや加工助剤の添加物を確認する。
- 添加物の由来に注意。アレルゲン由来のものはないか確認する。
- 製造時の混入に注意。使用した原材料だけでなく、製造時の混入情報を確認する。
- 海外の規格書に注意。制度が違うため表示の対象となるアレルゲンが異なる。
(義務7品目では「そば」が、推奨20品目では「大豆」以外の品目が対象外であることが多い) - 調査の対象範囲に注意。商品によっては義務7品目のみや推奨品目の中でも一部のみを対象としている場合がある。
なお、「入っているかもしれない」といった可能性についての表示は、消費者の食品選択の可能性を狭めてしまうため禁止されています。ご注意ください。
簡単にアレルギー表示についてまとめてみましたが、アレルギー表示とは、安全性のための表示であり、表示と実際とが対応していることが大切であることが理解いただければ幸いです。次回コラムは、「添加物」についてまとめてみたいと思います。
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【国産食品(国内流通)】食品表示調査:配合表、製品規格書等をもとに、原材料名や栄養成分等の食品表示案との適合性を検証します。各方面からの原材料詳細や表示内容の確認などの対応業務をサポートします。新商品や改版の確認業務、膨大な規格書情報の確認業務にご利用いただいております。
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川合 裕之
■職歴・経歴
1974年 岡山県生まれ
食品メーカー勤務後、2003年に食品安全研究所(現株式会社ラベルバンク)を設立。
「分かりやすい食品表示」をテーマとし、「食品表示検査・原材料調査」などの品質情報管理サービスを国内から海外まで提供しています。また、定期的に講演活動も行っています。
■主な著作物・寄稿ほか
【共著】
『新訂2版 基礎からわかる食品表示の法律・実務ガイドブック』 (第一法規株式会社, 2023)
【寄稿】
・2024年 第65巻 第4号 『食品衛生学雑誌』(公益社団法人日本食品衛生学会)「海外輸出向け食品における各国基準(添加物、栄養成分表示)の調査と実務上の課題」
・2021年10月『Wellness Monthly Report』(Wellness Daily News)40号
「食品表示関連規則の改正状況 今後の『食品表示』実務上のポイント」
・2020年2月『月刊 HACCP』(株式会社鶏卵肉情報センター)「アレルゲン表示の現状と留意点」
・2017年~2018年連載 『食品と開発』(UBMジャパン)「表示ミスを防ぐための食品表示実務の大切なポイント~」
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【講義】
・2009~2014年 東京農業大学生物産業学部 特別講師
■最近の講演・セミナー実績
・2025年1月28日 加工食品の各国の表示作成実務における留意点について
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・2025年1月23日 日本の食品表示制度の改正状況~まとめと今後について
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・2024年4月11日 “低糖質、〇〇不使用、植物由来、機能性等” 健康に関する食品の輸入および輸出時の表示確認の実務について
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