Author Archives: 黄 怡寧

About 黄 怡寧

台湾出身。微生物学および免疫学を専門とし、主に海外から国内に輸入される原材料や添加物の調査業務のほか、添加物物質名や基準値などの法令検索システム向けデータベース管理業務に従事しています。
趣味は音楽鑑賞と旅行。

各国の食品表示に関する改正動向

1. 台湾の栄養成分強調表示


 台湾の衛生福利部食品薬物管理署(FDA)は、2024年2月19日に『包装食品栄養表示に関する遵守事項』の一部改訂を公布しました。(一部は即日実施、残りは2026年1月1日に施行)「包装食品栄養表示に関する遵守事項」修正の要点として、「高、多、豊富」など高い旨の表示の対象となる栄養素およびその含量基準を追加し、強調してはならない文言も修正しました。特に注目すべき例としては、含糖炭酸飲料は「ビタミンC添加」または「100ミリリットルあたりビタミンC50ミリグラム含有」など、事実に即した栄養強調表示をすることができますが、「高ビタミンC」、「ビタミンCたっぷり」等それと同義の栄養強調表示および生理機能に関する文言を表示することはできないとしていることです。

2. ポルトガルの容器包装前面表示制度(FoP)


 容器包装前面表示制度は世界的にも導入が進んできており、2021 年以降、カナダシンガポールで導入が決定されています。FoP義務化に向けたEU規則案の提案は2022年に実現される予定であったものの、当初予定時期での公表はかなわず、後ろ倒しとなっています。Nutri-Scoreは、フランス、ドイツ、オランダ、ベルギー、ルクセンブル グ、スペイン(及び EU非加盟国のスイス)が支持していますが、ポルトガルは今年4月にNutri-scoreを正式に採用したヨーロッパで8番目の国となりました。

3. フランスの代替肉表示禁止案


 フランスにおけるプラントベース(肉の代替品)に「肉を連想させる」用語の使用を禁止する新しい法律(政令第2024-144号)は、2024年2月に発表され、5月1日から施行される予定でしたが、現在、一時停止されています。この件に関しては欧州連合司法裁判所(CJEU)の回答を待つ必要があります。2022年に中断された法案に関しては今後、新たな展開があるか注目されます。(フランスにおけるプラントベース食品(肉の代替品)の表示規制案について ~EUプラントベース食品に使用される用語の現状~

4. 海外における新ゲノム技術で作られた植物の規制動向


 2024年2月7日、欧州議会本会議にて、新しいゲノム技術(New Genomic Techniques)を使った「ゲノム編集」生物に対する規制緩和を承認しました。ゲノム編集食品の流通に向け、制度作りが始まる可能性が大きいです。承認された規制による、食品流通向けに主な影響としては、「ゲノム編集」生物の表示の義務化とトレーサビリティに関する書類の義務化があります。同月、米国食品医薬品庁(FDA)は、ゲノム編集技術を用いて作出された植物(New Plant Varieties)に由来する食品に対して自主的に実施される市販前の取り組みに関するガイダンスを公表します。シンガポールもゲノム編集作物の使用に関する規制枠組み案のパブリックコメントの募集が終わり、各国におけるゲノム編集食品の管理原則は徐々に成熟しつつありますが、詳細な管理規制の策定はまだ進行中です。今後の動向と議論の深化に引き続き注目する必要があります。

 消費者の自主的かつ合理的な選択の機会を確保し、分かりやすい表示を行うため、諸外国は様々な知見の集約に努めています。しかし、各国によってその考え方や規制文化が異なるため、食品の輸出入に関する調査の際には、国ごとに情報を集めるとともに、同じトピックについて他国の動向を見比べることも重要です。


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フランスにおけるプラントベース食品(肉の代替品)の表示規制案について ~EUプラントベース食品に使用される用語の現状~

概要


 2023年9月4日、フランスは肉の代替品に対する誤解を避けるため、国内で製造されるプラントベースの食品に対して、「ステーキ」や「スペアリブ」といった肉の名前の使用を禁止する修正案を再度発表しました。食肉に関する用語の禁止は、21用語に適用されます。しかし、定義された植物性タンパク質の最大含有量を超えない限り、120以上の動物由来の食品に関する名称の使用は許可されます。つまり、植物性食品だけで構成した「ナゲット」や「ベーコン」等のビーガン商品は新たな名称を名乗らなければならなくなります。

(Annex I) 植物性タンパク質を含む食品の名前に使用が禁止されている21用語:
  • Fillet(フィレ)
  • Striploin(ストリップロイン)
  • Rump(ランプ)
  • Rib steak(リブステーキ)
  • Beef cut(ビーフカット)
  • Sirloin(サーロイン)
  • Hanger steak(ハンガーステーキ)
  • Thin skirt(シンスカート)
  • Beef steak(ビーフステーキ)
  • Chuck(チャック)
  • Chuck steak(チャックステーキ)
  • Thin flank(シンフランク)
  • Steak(ステーキ)
  • Escalope(エスカロップ)
  • Flank(フランク)
  • Grilled(グリル)
  • Loin(ロイン)
  • Spare ribs(スペアリブ)
  • Ham(ハム)
  • Butcher(肉屋)
  • Meat product maker(食肉製品製造業者)

 この新しい修正案は発表から3か月後に施行され、事業者はこの期間に表示への対応を行います。

その他関連情報:Timeline


2020年6月
フランスはEU全体での規制に先駆け、2020年6月に施行された「農産品および食品に関する情報の透明性に関する法律」の第5条で、植物性タンパク質を含む食品の記述や販売、宣伝のために、動物由来の食品を示す名称を使用してはならない」と規定、「動物由来の製品名を使用する場合の植物性タンパク質の許容含有量については政令で定める」とした。

2020年10月
「Amendment165」(植物由来食品に対する表示規制)法案は否決され、「ベジバーガー」や「ビーガンソーセージ」の名称使用を容認。

2022年6月
その後、植物由来の食品を表すために「ステーキ」や「ソーセージ」などの用語の使用を禁止する法案を公表(EUでの制度導入は初めて)。しかし同年7月、国務院によって中断される。

2023年9月
新しい修正案(名称の規制案)を公表。

今後について


 プラントベースの食品の表示に関する議論はヨーロッパで続いており、明確な規制が確定されるまで、企業にとってはケースバイケースの分析が必要であり、不確実性が生じています。今回のフランスの規制は、EUのプラントベース食品にどのような変化があるか、注目が集まります。


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英国と日本の食品表示と考え方の違いについて


 2021年1月1日、日英包括的経済連携協定(EPA)発効後、日英間の盛んな自由貿易協定は進化を続けており、食品・飲料を含む主要市場は両国に多大な利益をもたらしています。英国のマーケットの現状について、2020年の時点では、英国で消費される食品の約半分(46%)は輸入品になります。英国のEU離脱後、EU諸国、ニュージーランド、オーストラリア、そしてこれまで英国の主要な貿易相手国であった日本との相次ぐ貿易協定を受け、輸出だけでなく、非EU製品とEU製品の輸入も引き続き増加すると予想されます。
 今回は弊社のイギリスのパートナーであり、食品に関する情報を扱うAshbury社に、英国の規制状況についてお話を伺いました。この記事では、日英間の表示制度を比較した際に発生する、異なる表示ルールのうち特に注意すべきポイントについて取り上げています。

関連する監督官庁の役割と責任の理解


 食品の輸出に当たっては、関係制度を把握することが大切になります。食品表示を監督する英国食品基準庁(Food Standards Agency)のWEBサイト等では、基準など実務上で必要な情報を調べることができます。英国で流通する包装済み食品には、食品情報の提供に関する規則(EU No.1169/2011)が適用されており、地方自治体が、その食品情報規則に沿った食品表示の遵守を確保し、監視する責任を負います。なお、パンや小麦粉、チョコレート、ジャムなど特定の食品は英国の製品別の規制で管理されています。食品添加物は、食品添加物に関する EU 法規制 No 1333/2008により使用可能な食品カテゴリーが定められており、(EU)No 231/2012では食品添加物の規格が定められています。英国内のメディアにおけるほとんどの広告・宣伝の規制に関する権限は広告基準庁(Advertising Standards Agency)に有り、広告の監視のほか、トラブルへの相談対応を取り扱っています。

アレルゲンと栄養成分の表示


 アレルゲンや栄養成分の表示方法は、国によって大きく異なり、フォーマット、レイアウト、文字組みなどの違いが、食品表示が基準に適合しない最も一般的な理由の一つとなっています。英国のアレルゲンや栄養成分表示は、「ナッツ」のように日本よりも対象範囲が大括りな項目もあるため、注意が必要です。英国食品基準庁のアラートによると、最も多いリコールは、アレルゲン表示の誤りや未申告のコンタミネーションが原因です。
 英国では、ピーナッツ、牛乳、卵、また広い範囲の甲殻類、ナッツ類、軟体動物などを含む14種類の食物アレルゲンを規定しており、そのアレルゲン又は製品が明確に食品の名称に言及されている場合を除いて、14 種類のアレルゲン又はこれらが使用されている製品については、その名称をすべて表示しなければなりません。加えて、太字など他の原材料と区別できる方法で強調表示する必要があります。特に、英国の表示では、「アレルゲンについては、太字の原材料をご覧ください」のような説明文や案内文を添付することが業界標準となっています。
 栄養成分表示は、(EU)1169/2011の付属書XVに規定された所定の形式に従う必要があります。この特定の形式には特定の順序があり、エネルギー値(kJおよびkcal)、脂質、飽和脂肪、炭水化物、糖類、たんぱく質、塩分(いずれもg)の順に記載します。日本の基本項目以外、飽和脂肪と糖類も義務表示の対象になります。

考え方の違い


 食品の保存方法、調理方法、賞味期限などについては、日本でも同じような表示項目がありますが、考え方にいくつかの相違点があります。

期限表示
 英国でも、「賞味期限」は食品の品質保持に関する期間を、「消費期限」は飲食をしても安全な期間を表しており、腐敗しやすく、短期間のうちに人体の健康に危険を及ぼす可能性のある食品については消費期限で示すことになります。「賞味期限」は表示に記載されているのが一般的ですが、食品種類によっては必ずしも記載されているわけではありません。その一方で、英国で製造された製品には「開封後3日以内に使用ください。」など、具体的な期限が表示されていることがよくあります。 これは安全上の理由から、開封後の製品に対して別の保存方法が必要な場合は、守るべき保存方法と開封後の期限を記載しなければならないためです。また、冷凍肉、冷凍肉調理品、冷凍未加工水産物の食品表示には、「冷凍」という単語の後に、消費期限(日付)と最初に冷凍された日付が必要です。

原産国名
 原産国名の表示については、肉、魚など特定の食品又は特別なルールが要求される場合以外には、要求されていません。原産国の情報が無いなど、消費者が製品の原産国について誤解する可能性がある場合に限り、この情報を表示することが義務付けられています。また、製品の原産国を記載する際に、主原料の原産地が製品の原産国と異なる場合は、主原料の原産地を表示することも義務付けられています。

適切な翻訳と基準に基づいた表示


 食品表示は「消費者の安全を守る」という役割があります。翻訳の際、直訳してしまうと現地基準では受け入れられない言葉やフレーズとなる可能性があり、そのような誤解を招くような情報は、消費者に安全性の不安を与えてしまいます。例えば、「天然」という言葉は、英国でも禁止される場合が多く、明確な定義もされています。しかしながら、日本では香料を含む添加物での使用はできませんが、英国では「天然香料」のような用語の表示に対しては、 (EC) No 1334/2008に記載された特定の要件を満たした場合に使用可能です。

 輸出国と日本の制度を比較しながら、その違いを把握した上で、輸出国の背景を理解して食品表示を適合させることが大切です。今回は英国を対象として日本の食品表示基準との違いを挙げましたが、これらの違いは一部であり、他の相違点もあります。制度の違いにより、互いの文化を理解するチャンスとして、仕事の楽しみの一つとなれば幸いです。


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