Author Archives: 川合 裕之

About 川合 裕之

食品表示検査業をしています。国内と海外向けに、食品表示検査と原材料調査サービスを提供している経験をもとに、食品表示実務に関する講演をしています。

■職歴・経歴
1974年 岡山県生まれ
食品メーカー勤務後、2003年に食品安全研究所(現株式会社ラベルバンク)を設立。
「分かりやすい食品表示」をテーマとし、「食品表示検査・原材料調査」などの品質情報管理サービスを国内から海外まで提供しています。また、定期的に講演活動も行っています。

■主な著作物・寄稿ほか
【共著】
『新訂2版 基礎からわかる食品表示の法律・実務ガイドブック』 (第一法規株式会社, 2023)

【寄稿】
・2025年 4月1日 『Wellness Daily News』(株式会社ウェルネスニュースグループ)「食品表示基準の一部改正、課題征服へ 【解説】どこがどう変わったのか?今後の対策は?」
・2024年 第65巻 第4号 『食品衛生学雑誌』(公益社団法人日本食品衛生学会)「海外輸出向け食品における各国基準(添加物、栄養成分表示)の調査と実務上の課題」
・2021年10月『Wellness Monthly Report』(株式会社ウェルネスニュースグループ)40号
「食品表示関連規則の改正状況 今後の『食品表示』実務上のポイント」
・2020年2月『月刊 HACCP』(株式会社鶏卵肉情報センター)「アレルゲン表示の現状と留意点」
・2017年~2018年連載 『食品と開発』(UBMジャパン)「表示ミスを防ぐための食品表示実務の大切なポイント~」

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【講義】
・2009~2014年 東京農業大学生物産業学部 特別講師

■最近の講演・セミナー実績
・2025年3月13日 輸出食品における各国基準 調査と実務上のポイント最新動向
 一般財団法人日本能率協会様主催。
・2025年1月28日 加工食品の各国の表示作成実務における留意点について
 一般財団法人食品産業センター様主催。
・2025年1月23日 日本の食品表示制度の改正状況~まとめと今後について
 株式会社ウェルネスニュースグループ様主催。
・2024年4月11日 “低糖質、〇〇不使用、植物由来、機能性等” 健康に関する食品の輸入および輸出時の表示確認の実務について
 アヌーガ・セレクト・ジャパン様主催。
・2023年12月21日 輸出食品における各国基準(添加物および食品表示等)調査と実務上のポイント
 一般財団法人食品産業センター様主催。
・2023年11月9日 食品表示基準と実務上の大切なポイント~保健事項、衛生事項を中心に~
 千代田保健所様主催。

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栄養表示基準改正のポイント

2013年9月末に栄養表示基準の改正が行われ、表示の方法などが変更されましたので、今回は変更点について紹介いたします。

誤差の許容範囲の拡張


これまで、表示されている栄養成分量と実測値との間に認められる誤差は一律±20%(五大栄養成分の場合)とされていました。ただこの場合、含有量が少ない場合は、誤差の許容範囲も狭くなってしまうため、一部の栄養成分について、少含量の場合はパーセントによる許容範囲をやめ、絶対値(±○gなど)による許容範囲を追加する形となりました。これにより、誤差の許容範囲が拡大されることになります。

推定表示が認められる旨が追加


これまでも、計算上の値を記載することは可能でしたが、「実際に分析して得られた値」と「記載されている含有量」とが誤差の許容範囲を超えていた場合は不適正な表示となっていました。そのため、栄養表示を行う際は指定された分析方法で各栄養素の含有量を算出することを求められる場合が多く、その際に分析設備を持たない場合は外部の分析会社に委託する必要がありました。

ですが、今回の改正により、分析によって得られた数値の他、「合理的な推定により得られた値を記載することができる」ことが追加されるようになり、分析だけでなく文部科学省から出されている「五訂増補日本食品標準成分表」などをもとに計算によって得られた数値を記載することが広く可能となりました

 

推定値であることを記載する必要がある


必ずしも分析によって得られた数値でない場合でも記載が認められるようになりましたが、その際には栄養表示の近傍に分析値ではないことがわかるように
1.「推定値」
2.「この表示値は目安です。」
のいずれかの文言を含むことが必要となります。
(消費者への情報提供として、「日本食品標準成分表2010の計算による推定値」などと、設定根拠を併記しても差し支えありません。)

イメージ

栄養数値の根拠について


また、推定値による数値を記載する場合は、その数値を算出するに至った根拠
―例えば、計算値による推定値の場合は、
1. 採用した計算方法、
2. 引用したデータベースの名称、
3. 原材料について、配合量が重量で記載されたレシピ、
4. 原材料について、その栄養成分等の含有量を示す妥当な根拠に基づくデータ、
5. 調理加工工程表、
6. 調理加工前後における重量変化率に関するデータ―
を資料として保管する必要があり、たとえ推定値による数値算出が認められる場合においても、憶測や伝聞を根拠とした表示は認められないということになります。

 

栄養機能食品や栄養成分について強調表示を行う場合は推定値表示の対象外


1食中に栄養素が適切量含んでいるものとして、規定の機能性表示が認められる「栄養機能食品」や、「ビタミンCたっぷり」や「カロリーオフ」といったような特定の栄養成分について強調してパッケージに記載する場合は推定値による表示を認めておらず、これまで同様分析値による正確な値が求められる事になります。

今回の栄養表示の改正は、今後控えている栄養表示の義務化に関して、これまでに挙がっていた過剰な取り締まりや分析コストへの懸念に対応するためのものと思われます。

この改正に至るまでに、「本来食材個々の栄養にはばらつきがあり、悪意がなく良識の範囲で作成された表示については取り締まりの対象にすべきではない」という意見の一方で、「生活習慣病などの非感染性疾患予防の観点から、正確な表示値を確保する努力をすべきであり、断り書きをつけることで済ますことは適当ではない。」とする慎重意見もありました。どちらの意見も一概に間違っているものではなく、これを完全にルール化できるものでは無いと考えます。ただ、商品の特性から購入されるお客様の望まれる情報の提供であることを第一としてほしいと思います。


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一般の健康食品への「機能性表示」容認の議論の現状について

機能性食品

政府の規制改革会議「健康・医療ワーキンググループ」により、これまで機能性表示のできなかった「一般の健康食品についても、機能性表示を可能にする制度」の構築を進めている状況について、取り上げてみたいと思います。

背景としては、これまでのように「セルフメディケーション」といった考え方もあると思いますが、今回の規制緩和は「TPP参加をきっかけとする国際的な競争力の向上」もあると考えられます。食品表示の制度に関する議論では、栄養表示の義務化の方針が発表されたばかりですが、同時期に機能性表示に関する規制緩和の方針も発表されたことになり、関係者からは注目を集めている話題となっています。

現状の表示制度について


現状では「○○に効く」といった医薬品的な効能効果の表示ができるものは、医薬品の部類に限られ、食品とは明確に区別されています。

その食品のうち、保健の機能に関する表示ができるものを「特定保健用食品」、栄養の機能に関する表示ができるものを「栄養機能食品」とした制度があります(その他「特別用途食品」もあります)。

前者の特定保健用食品は、通称で「トクホ」と呼ばれるもので、例えば「おなかの調子を整える」等の表示が可能となる、主に個別審査による許可表示制度をとっています(一部成分では規格基準型、疾病リスク低減表示の可能なものもあります)。後者の栄養機能食品は、一定の成分において上限下限等の条件を満たせば「ビタミンCは、皮膚や粘膜の健康維持を助けるとともに、抗酸化作用を持つ栄養素です」等と表示が可能となる、事業者の判断による規格基準型の制度をとっています。

ただしこれら対象成分は限られており、例えばグルコサミンやヒアルロン酸等の成分は現行制度には含まれていません。これらを「一般的な健康食品」と呼び、今後機能性表示を可能にする制度を構築しようとするものが、今回の議論です。

米国型の制度を参考に


規制改革会議の健康・医療ワーキンググループでは、「国際先端テスト」の参考資料として、主にアメリカの機能性表示制度と日本の制度との比較を重点においたものをもとに議論を進めています。アメリカの機能性表示制度では「ダイエタリーサプリメント」と呼ばれるものが、日本でいう特定保健用食品、栄養機能食品を包括した大きな概念で運用されています。

(日本の制度と比較すると、主なダイエタリーサプリメントでは
「1:対象の栄養成分の種類が多い(グルコサミン、ヒアルロン酸等も対象)」
「2:言及できる機能の範囲が広い(人の構造・機能への影響等)」
「3:科学的根拠を前提とした届出制(FDAの許可不要)」となっている点に特徴があります。

また健康の強調表示を行う際でも、エビデンスのレベルに応じた表示が可能であり、疾病リスク低減表示の対象成分が日本よりも多い制度となっています。本文末に規制改革会議で使用された議事録のURLを記載しますので、そちらの比較表を参照してみると分かりやすいと思います。)こうした海外の制度と日本の制度を比較し、今後の機能性表示制度を検討していくものと考えられます。

慎重論と今後の予定


規制緩和を望む人たちにはうれしいニュースとなるかと思いますが、やはり「健康食品への機能性表示拡大は時期尚早」と慎重論も多数存在し、一部反対の意見書を提出するなどの動きもあります。これらの根拠としては、参考とする米国型の制度にも課題はあり、結果として工場視察強化などの規制強化の動きにある点を強調しています。日本でも新しい機能性表示制度ができる際には、GMP(Good Manufacturing Practice)等の品質管理基準など、なんらか製造に関する基準への言及の可能性も考えられます。

また今後の予定ですが、消費者庁長官の記者会見(2013年8月28日)で「10月より大規模な消費者意識調査を実施」「どの程度の機能性表示を望んでいるのかということをしっかりと把握した上で考えていきたい」と発表されています。

また消費者庁の26年度予算「規制改革による経済再生のための一般健康食品の機能性表示を可能とする仕組みの整備等に必要な経費」では、事業目的に「規制改革実施計画において実施することとされた食品の機能性表示の新たな方策、栄養機能食品の対象拡大等について調査、検討し、消費者にとって、自主的かつ合理的な商品選択に資する機能性表示制度を平成26年度中に実施することを目的とする」とありますので、実施の時期についても今後注視していく必要があると思います。

    

おもな参考資料一覧
規制改革会議 健康・医療ワーキング・グループ 第2回目議事録
世界(特に米国ダイエタリーサプリメント制度)とのギャップ
規制改革による経済再生のための一般健康食品の機能性表示を可能とする仕組みの整備等に必要な経費
 平成25年行政事業レビューシート

阿南消費者庁長官記者会見要旨(平成25年8月28日(水))


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アレルギー表示推奨品目にカシューナッツとゴマ追加へ

2013Cashew

3年ごとの見直しの一環として


5月30日、消費者庁がアレルギー表示の推奨品目に、カシューナッツとゴマを追加する方針を固めたと報道がありました。もともとアレルギー物質を含む食品表示については、概ね3年に1度、食物アレルギーによる健康被害の実態調査を行い、その結果のうえで表示制度を見直していることが背景にあります。前回は平成20年度に、「えび」「かに」の表示義務品目への追加(推奨からの格上げ)がありました。これで義務7品目、推奨20品目の計27品目の表示対象となる見込みです。

義務表示(7品目) 卵、乳、小麦、そば、落花生、えび、かに
推奨表示(18品目)
(通知により表示を推奨)
あわび、いか、いくら、オレンジ、キウイフルーツ、牛肉、くるみ、さけ、さば、大豆、鶏肉、バナナ、豚肉、まつたけ、もも、やまいも、りんご、ゼラチン

即時型食物アレルギーに関する試験検査


今回の委員会では、『平成24年度食品表示に関する試験検査「即時型食物アレルギーによる健康被害、及びアレルギー物質を含む食品に関する試験検査」』をもとに議論がされました。

この調査報告書は、アレルギーを専門とする医師(日本アレルギー学会指導医および専門医、日本小児アレルギー学会会員の中で調査の主旨に賛同をえられたもの(平成22年度1079名))が、調査対象として「何らかの食物を摂取後60分以内に症状が出現し、かつ医療機関を受診したもの」2954例(平成23年)を研究したものです。

調査結果から原因食物とショック誘発頻度を上位から並べたところ、現在の義務表示7品目と推奨表示18品目合計で82?93%を占めているとされています。
ここで「原因食物上位でカバーされていない食品は、カシューナッツ(全体に占める割合0.6%)、ゴマ(0.4%)、またショック症例においては、カシューナッツ(ショック症例に占める割合1.6%)」として、カシューナッツとゴマについては表示の検討をすべきという報告となり、今回の委員会で表示対象追加の運びとなったようです。

原因食物およびショック誘発食物の頻度
原因食物およびショック誘発食物の頻度

(また同時に甘味料の摂取によるアレルギー調査の結果も報告されていました。結果ではエリスリトール15例、キシリトール10例、ステビア2例などが即時型アレルギーの健康被害の疑いがあるとされています。キシリトールとステビアは添加物なので物質名の表示が必要であることから、食品表示に対する影響は今後も少ないとみられます。エリスリトールは食品ですので、ごく微量の使用で表示を省略している場合は、今後の発表を見守る必要があるかと思います。)

時期、経過措置等は今後検討


こうした経緯で「カシューナッツとゴマ」推奨表示対象化の方向性が決まったとされています。気になる時期についてですが、公開された議事録では通知時期に関しては明記されていません。施行から1年もしくは2年の経過措置を経て、正式に運用となるのが通例ですが、通知以前に事業者側に必要な準備を検討すると思われます。今回はえび・かに(元々推奨だったものを義務に格上げ)とは異なり、元々資料に含まれていない物質の追加ですので、通知までにある程度時間がかかる可能性もあるかと思います。

例えば代替表記と認められる複合原材料などの範囲の検討です。代替表記とは、例えば「醤油」のみの表記で大豆表記の代わりになる、「マヨネーズ」のみの表記で卵表記の代わりになる、といったものをまとめたルールです。

また添加物中に含まれるアレルギー物質の一覧表(「特定原材料等由来の食品添加物についての表示例」)もそうです。例えば「レシチン」などは大豆由来であることも多いのですが、その文字外見だけからはアレルギー物質由来かどうかが判断しづらいものです。こうしたものをまとめた一覧表についても、カシューナッツやごまを反映されたものが発表されると思います。

実務上での大切なポイント


カシューナッツやゴマを含む複合原材料、またそれらを由来とする添加物が少ないようであれば、意外と早く通知自体があるかもしれません。そのため、起こりうる変化を早めに察知しておきたいものです。

まずは、現在の規格書中から情報を遡って、「カシューナッツ」「ゴマ」が使用されている原料や商品がどの程度あるかを、把握しておく必要があると思います。

また海外サプライヤーから原料を輸入している場合は、多くの場合「ナッツ類」と情報を受け取っていると思います。これまでは「ナッツ類に”くるみ”は含まれるか」の確認ですみましたが、ここに「カシューナッツ」を追加してヒアリングする必要があると思います。

もしも推奨品目含め特定原材料は使わない、という商品開発ポリシーであれば、原料変更など商品開発自体に関わる問題については、早めに対応しておく必要があります。

次にシステム面の見直しです。
情報を管理する規格書等に、アレルギー物質として最大25品目までの登録しかできないフォーマットであれば、これを変更することも検討が必要です。

デザイン上ですでにアレルゲンテーブルなどを使って25品目すべてを表記している場合は、こちらのスペース確保も検討が必要になると思います。またすでにホームページやカタログ等で消費者向けにアレルギー物質を含む商品一覧表などの情報を提供している会社は、これらの修正を検討する時間も確保が必要です。

そして正式な通知があれば、消費者庁等から先ほどの「代替表記」「特定原材料由来の添加物」などの周辺情報も発表されると思います。例えば「芝麻醤」はゴマとしての代替表記が可能なのか、などといった問題もここで確認できるようになると思います。


長くなりましたが、私は表示には賛成です。アレルギーというのは、当事者の立場で考えると大変な問題です。推奨とはいえ、今は多くの事業者が情報開示しているので、該当のアレルギーを持つ方にはよい知らせではないかと思います。ただ私も、商品開発側や品質保証側の苦労も同時に味わうことになりますので、また大変な作業が増えそうだな・・・という気持ちもあります。

いずれにしてもこうした制度見直し自体が、商品の見直しの契機にもなりますので、よりよい商品づくりに応用できるきっかけになれば、と思います。

追記

アレルギーのカシューナッツとゴマの追加については、
2013年9月20日消費者庁より正式発表され、猶予期間は2014年8月31日まででした。


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