Author Archives: 川合 裕之

About 川合 裕之

食品表示検査業をしています。国内と海外向けに、食品表示検査と原材料調査サービスを提供している経験をもとに、食品表示実務に関する講演をしています。

■職歴・経歴
1974年 岡山県生まれ
食品メーカー勤務後、2003年に食品安全研究所(現株式会社ラベルバンク)を設立。
「分かりやすい食品表示」をテーマとし、「食品表示検査・原材料調査」などの品質情報管理サービスを国内から海外まで提供しています。また、定期的に講演活動も行っています。

■主な著作物・寄稿ほか
【共著】
『新訂2版 基礎からわかる食品表示の法律・実務ガイドブック』 (第一法規株式会社, 2023)

【寄稿】
・2024年 第65巻 第4号 『食品衛生学雑誌』(公益社団法人日本食品衛生学会)「海外輸出向け食品における各国基準(添加物、栄養成分表示)の調査と実務上の課題」
・2021年10月『Wellness Monthly Report』(Wellness Daily News)40号
「食品表示関連規則の改正状況 今後の『食品表示』実務上のポイント」
・2020年2月『月刊 HACCP』(株式会社鶏卵肉情報センター)「アレルゲン表示の現状と留意点」
・2017年~2018年連載 『食品と開発』(UBMジャパン)「表示ミスを防ぐための食品表示実務の大切なポイント~」

>> 寄稿の詳細はこちら

【講義】
・2009~2014年 東京農業大学生物産業学部 特別講師

■最近の講演・セミナー実績
・2025年1月28日 加工食品の各国の表示作成実務における留意点について
 一般財団法人食品産業センター様主催。
・2025年1月23日 日本の食品表示制度の改正状況~まとめと今後について
 株式会社ウェルネスニュースグループ様主催。
・2024年4月11日 “低糖質、〇〇不使用、植物由来、機能性等” 健康に関する食品の輸入および輸出時の表示確認の実務について
 アヌーガ・セレクト・ジャパン様主催。
・2023年12月21日 輸出食品における各国基準(添加物および食品表示等)調査と実務上のポイント
 一般財団法人食品産業センター様主催。
・2023年11月9日 食品表示基準と実務上の大切なポイント~保健事項、衛生事項を中心に~
 千代田保健所様主催。

>> 講演・セミナーの詳細はこちら

「日本人の食事摂取基準(2020年版)」が公表されました ~栄養素等表示基準値の改定は見送りに~

 2020年4月24日、消費者庁は「栄養素等表示基準値の改定に関する調査事業 報告書(以下「報告書」)」を公表しました。また1ヶ月前の3月27日に、食品表示基準、食品表示基準について(通知)、食品表示基準Q&Aがそれぞれ改正されておりますが、新しいニュースではない点をご了承ください。

【ポイント】

  • 2019年12月に「日本人の食事摂取基準(2020年版)」の策定検討について報告され、その後、厚生労働省より公表されました。
  • 食品表示基準の「栄養素等表示基準値」は「日本人の食事摂取基準(2015年版)」を基に設定されています。
  • 消費者庁は「栄養素等表示基準値」等の見直しに関する検討を行い、結果、改定は行わないことになりました。

検討の背景


 栄養素等表示基準値※は、栄養強調表示や栄養機能食品の表示をする際に基礎となっているものです。改定が検討された背景については 「報告書」に整理されています。

 食品表示基準(平成27年内閣府令第10号)に規定している栄養素等表示基準値は、厚生労働省策定の「日本人の食事摂取基準(以下「食事摂取基準」という。)(2015年版)」に基づき設定している。食事摂取基準に示された栄養素について、当該食事摂取基準を性及び年齢階級(18歳以上に限る。)ごとの人口により加重平均した値であり、食品に関する表示を行う際に用いる基準値として設定したものである。
 厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2020年版)」策定検討会において、食事摂取基準の改定が検討され、平成31年3月22 日の第6回検討会を経て、食事摂取基準(2020年版)が公表された。
 栄養素等表示基準値については、食事摂取基準の改定箇所等を踏まえ、栄養機能食品の1日当たりの摂取目安量に含まれる機能に関する表示を行っている栄養成分の量の下限値及び上限値の一部並びに栄養強調表示の基準値の一部の設定の基礎となっている。
このため、本事業は、食事摂取基準(2020年版)の公表を踏まえ、栄養素等表示基準値等の見直しに関する検討を行うことを目的とした。

※「食品表示基準について(通知)」において、「栄養素等表示基準値とは、表示を目的として、食事摂取基準の基準値を日本人の人口に基づき加重平均したものであり、必ずしも個人が目指すべき1日当たりの栄養素等摂取量を示すものではない。」と記載されています。

検討結果


 「報告書」では、以下のとおり検討の結果について整理されています。

  • 食事摂取基準(2020年版)に基づく栄養素等表示基準値の改定は行わない。
  • ただし、その論拠を報告書に明記するとともに、国民の食品によるビタミンD※の摂取状況等を把握した上で、慎重に改定要否を検討する。

※栄養素等表示基準値の現行値と暫定値(食事摂取基準(2020年版)及び最新の人口推計値を用いて算出)を比較し、ビタミンDは差異が50%以上であったため、特に優先検討項目とされました。

 また、栄養素等表示基準値の改定は行わないこととされたため、栄養機能食品に含まれる栄養成分量の下限値及び上限値並びに栄養強調表示の基準値の改定についても、行わないこととされました。

 なお改定年次の表示については、検討委員より以下の指摘があったことが報告されています。

  • 事業者がどの時点の栄養素等表示基準値を参照して記載しているのか明確化し、消費者にその情報を伝えるためにも、栄養素等表示基準値の改定年次の表記が必要ではないか。
  • 栄養素等表示基準値の改定が行われなかった場合であっても、検討の結果、改定を行わない旨の判断がなされている。そのため、結果として改定が行われない場合であっても参照すべき年次の表記を行うことが必要ではないか。

「食品表示基準について」の改正内容


 これを受け、2020年3月27日に「食品表示基準について(通知)」が改正されました。栄養機能食品の表示に関する点を、「食品表示基準について 第十九次改正 新旧対照表」より以下に抜粋します。(改正により、右側下線部分が削除されています。「食事摂取基準(2015年版)」の記載を消すことで、2015年版、2020年版等の混乱をなくす意図と思われます。)

「栄養素等表示基準値の対象年齢及び基準熱量に関する文言」とは、「栄養素等表示基準値(18歳以上、基準熱量2,200kcal)」その他これに類する文言とする。

必要的表示事項である栄養素等表示基準値に対する割合、栄養素等表示基準値の対象年齢及び基準熱量に関する文言を表示した上で、小児や月経ありの女性等、特定の性・年齢階級を対象とした食事摂取基準を任意で表示することは差し支えない。その場合、出典を明記すること。

「栄養素等表示基準値の対象年齢及び基準熱量に関する文言」とは、「栄養素等表示基準値(18歳以上、基準熱量2,200kcal)」その他これに類する文言とする。

食品表示基準に基づき栄養素等表示基準値に関する表示をする場合、栄養表示基準との差別化を図るため、「栄養素等表示基準値(2015)」等、日本人の食事摂取基準(2015年版)を基にしていることが分かるような表示とすることが望ましい。

必要的表示事項である栄養素等表示基準値に対する割合、栄養素等表示基準値の対象年齢及び基準熱量に関する文言を表示した上で、小児や月経ありの女性等、特定の性・年齢階級を対象とした食事摂取基準を任意で表示することは差し支えない。その場合、出典を明記すること。

 その他、食品表示基準においては「栄養成分又は熱量の適切な摂取ができる旨」についても改正があり、低い旨の表示は「基準値に満たない場合にすることができる」から「基準値以下である場合にすることができる」ことに変わっています。
 しばらくは当コラムでも新型コロナウイルス感染症関連のニュースを優先して掲載しておりましたが、3月27日の改正について確認されていない方は、一度目を通しておかれるとよいと思います。


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【4月13日追記】新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う中国産輸入原材料の供給不足を受けた 食品表示基準と米トレーサビリティ法の弾力的運用について

【最終更新日:2020年4月13日】

2020年4月10日、消費者庁より新しい通知が発表されています。
対象国を中国の1ヶ国とした前回(2020年3月3日、9日)の通知は廃止され、特定の国を対象とせず、また対象となる表示事項が拡大されています。詳細はこちらをご覧ください。

2020年3月3日、消費者庁と農林水産省による連名で「新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う中国産輸入原材料の供給不足を受けた食品表示法に基づく食品表示基準の弾力的運用について」を発表しました。また3月9日に続けて、「新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う中国産輸入原材料の供給不足を受けた米トレーサビリティ法の弾力的運用について」を発表しています。

【背景】

現在、中国における新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う中国産輸入原材料の供給不足により、法令を遵守し、一般消費者に対し、容器又は包装への表示により、中国産である旨の産地情報の伝達を行っている商品について、中国産以外の原材料への切替えを検討している食品関連事業者が容器包装の資材変更に即時対応できず生産が滞るなど、米穀等に関する適正かつ円滑な流通に支障が生じている

【目的】

新型コロナウイルス感染症の拡大が社会的、経済的活動に影響を及ぼしている現状において、一般消費者の需要に即した食品の安定供給に向けた生産体制を確保するため

<通知の概要(食品表示基準)>

  • 中国産として原料原産地表示を行っている商品について、原料原産地表示の中国産との表記と実際に使用されている原材料の原料原産地に齟齬がある場合であっても、一般消費者に対して、店舗等内の告知、社告、ウェブサイトの掲示等により当該商品の適正な原料原産地に係る適切な情報伝達がなされている場合に限り、食品表示基準を弾力的に運用する
  • なお今回の運用は、食品の生産及び流通の円滑化を図るために講じるものであり、消費者を欺瞞するような悪質な違反に対しては、これまでどおり厳正な取締りが行われる

<通知の概要(米トレーサビリティ法)>

  • 中国産である旨の産地情報の伝達を行っている商品(※1)について、原料原産地表示の中国産との表記と実際に使用されている原材料の産地に齟齬がある場合であっても、一般消費者に対して、店舗等内の告知、社告、ウェブサイトの掲示等により当該商品の適正な産地に係る適切な情報伝達がなされている場合に限り、米トレーサビリティ法(※2)第8条の規定を弾力的に運用する
  • なお今回の運用は、米穀等に関する適正かつ円滑な流通を図るために講じるものであり、一般消費者を欺瞞するような悪質な違反に対しては、これまでどおり厳正な取締りが行われる

※1.米トレーサビリティ法施行令第1条に掲げる飲食料品のうち、清酒、単式蒸留しょうちゅう、みりん、もちを除いたもので、産地が「中国」である旨を容器包装に表示した商品
※2.『米穀等の取引等に係る情報の記録及び産地情報の伝達に関する法律』

 詳細は、以下のページで確認してください。なお、この原稿執筆時点(2020年3月31日)では、対象国は「中国」の1ヶ国のみです。

参照:消費者庁「食品表示に関するお知らせ」

 また農林水産省サイトにおいては「食品産業事業者に新型コロナウイルス感染者が発生した時の対応及び事業継続に関する基本的なガイドライン」が発表されています。感染拡大防止を前提として、食料安定供給の観点から、業務継続を図る際の基本的なポイントが記載されていますので、あわせて確認をされておかれるとよいと思います。

【2020/4/13 追記】

 2020年4月10日、消費者庁より新しい通知が発表されています。
対象国を中国の1ヶ国とした前回(2020年3月3日、9日)の通知は廃止され、特定の国を対象とせず、また対象となる表示事項が拡大されています。

1)新型コロナウイルス感染症の拡大を受けた食品表示法に基づく食品表示基準の弾力的運用について

食品表示法第六条第八項に規定するアレルゲン、消費期限、食品を安全に摂取するために加熱を要するかどうかの別その他の食品を摂取する際の安全性に重要な影響を及ぼす事項を定める内閣府令(平成 27 年内閣府令第 11 号)第1条に定める事項を除き、食品表示基準に基づき容器包装に表記された原材料等、原料原産地又は栄養成分の量などの表示事項と実際に使用されている原材料等、その原料原産地又は当該原材料等から得られる栄養成分の量などの表示事項に齟齬がある場合であっても、一般消費者に対して、店舗等内の告知、社告、ウェブサイトの掲示等により当該食品の適正な原材料等その他の情報が適時適切に伝達されている場合にあっては、当分の間、取締りを行わなくても差し支えないこととします

2)新型コロナウイルス感染症の拡大を受けた米トレーサビリティ法の弾力的運用について

容器又は包装の表記と実際に使用されている原材料の産地に齟齬がある場合であっても、一般消費者に対して、店舗等内の告知、社告、ウェブサイトの掲示等により当該商品の適正な産地に係る適時適切な情報伝達がなされている場合にあっては、当分の間、取締りを行わなくても差し支えないこととします

3)新型コロナウイルス感染症の拡大を受けた製造所等及び製造所固有記号の表示の運用について

1.製造所等の表示の運用について
他の製造所等に食品の製造又は加工を委託する場合など、基準第3条に基づき容器包装に表示された製造所等と実際の製造所等が異なる場合であっても、製造所等の表示の取扱いの特例として、当面の間、別添届出様式(様式第1号)を用いて届け出ることにより、実際の製造所等と容器包装に表示された製造所等が異なることとなっても差し支えないこととします。

2.製造所固有記号の表示の運用について
基準第3条に基づき容器包装に表示された製造所固有記号が示す製造所と実際の製造所が異なる場合であっても、製造所固有記号の表示の取扱いの特例として、当面の間、別添届出様式(様式第2号及び第3号)を用いて届け出ることにより、使用していた記号を他の製造所に例外的に使用できることとします。

 詳細は各通知にてご確認ください。


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「食品添加物表示制度に関する検討会報告書(案)」(「人工・合成」削除、「無添加・不使用」、栄養強化目的の添加物の表示)が公表されました


 2020年2月27日開催の第9回食品添加物表示制度に関する検討会において、消費者庁より「食品添加物表示制度に関する検討会報告書(案)」が公表されました。添加物表示制度のうち、とりわけ「無添加」「不使用」表示に関する動向が注目されていると思いますので、こちらに報告書(案)の内容についてまとめてみます。

【ポイント】

  • 「無添加」、「不使用」等の表示については、新たにガイドラインが策定される
  • 「合成保存料」、「人工甘味料」等の「人工」「合成」の用語については、食品表示基準から削除される
  • 栄養強化目的の添加物については、原則全ての加工食品に表示させる方向で、実態調査を実施する

整理の方向性について


(1)一括名表示、簡略名・類別名表示及び用途名表示の在り方

<整理の方向性>

 一括名表示、簡略名・類別名表示及び用途名表示は、表示可能面積が限られていること、これまで30 年以上用いられてきたことから、消費者にとってなじみがあり分かりやすい。一方、現状の制度では、使用した個々の添加物とその使用目的が分からない場合がある。このため、使用した個々の添加物が分かるように、又は後から調べることを可能とするため、コーデックス規格に基づく表示を仮に採用した場合は文字数が大幅に増加することから、表示可能面積の問題や見やすさ、分かりやすさが現状よりも失われる懸念がある。その他、添加物を番号で表示することについては、消費者になじみがないことに加え、使用可能な添加物がコーデックス規格と我が国の制度とで異なることから、番号に置き換えることが可能なものとそうではないものが存在する。また、用途名の併記については、複数の効果を持つ添加物が多数存在し、その用途の選定は結果的に使用する事業者に委ねられるものであり、なじみのない表現もある。以上のことから、現状の制度を変更することは現時点では困難である。

(2)「無添加」、「不使用」の表示の在り方

<整理の方向性>

 『「無添加」、「不使用」、等の表示』
 食品表示基準第9条では表示すべき事項と矛盾する用語や内容物を誤認させるような文字等を禁止しており、食品表示基準Q&A は同条の解釈を示すものであるが、同条の規定の解釈を網羅的に示したものではない。また、添加物に関して「無添加」等の表示方法を示す食品表示基準Q&A も曖昧である。現状の曖昧な食品表示基準Q&A を基に「無添加」等の表示を事業者が任意で行っていることが、消費者意向調査において一部の消費者が「無添加」等の表示を理解していない結果が得られた理由の一つとも考えられる。一方、無添加等の表示を一律に禁止することは妥当ではない。このため、「無添加」等の表示の在り方については、食品表示基準で禁止されている表示すべき事項の内容と矛盾する又は内容物を誤認させるような「無添加」等の表示をなくすことを目的とし、同条の表示禁止事項に当たるかどうかのメルクマールとなるガイドラインを策定することが適当と考えられる。ガイドラインの策定等を通じて、事業者による既存の公正競争規約の改正、業界の新たな公正競争規約の策定を促すことが期待される。

『「人工」、「合成」の用語』
 「合成保存料」、「人工甘味料」等、「人工」及び「合成」を冠した食品添加物表示の規定については、現行の食品衛生法における添加物の取扱いを鑑み、消費者の誤認防止の観点から、削除することが適当であると考える。

(3)栄養強化目的で使用した食品添加物の表示

<整理の方向性>

 栄養強化目的で使用した食品添加物については、諸外国において食品添加物として扱っていないこと及びビタミン、ミネラル、アミノ酸等の含有量の表示は重要であることから、食品表示法制定以前の食品衛生法では、別途栄養成分の表示として整理することが適当とされ、調製粉乳等、栄養に配慮が必要な食品以外ではその表示を要しないとされていた。一方で、食品表示法制定以前のJAS 法では、食品群に応じた規格を設けその規格において使用可能な食品添加物を制限するとともに、栄養強化目的であっても使用した食品添加物は表示することとされており、両法において栄養強化目的で使用した食品添加物の表示の考え方に違いがあった。
 食品表示法に基づく食品表示基準における栄養強化目的で使用した食品添加物の表示の考え方は、以上のような食品衛生法とJAS 法の表示の取り扱いをそのまま取り入れた結果、表示義務がある食品とない食品が存在し、消費者にとって分かりにくい状況となっている。また、国際的にみても、コーデックスやEU、豪州等においては、栄養強化目的の物質を食品添加物としていないものの、使用した物質は全て表示させている。このため、栄養強化目的で使用した食品添加物を知りたいという消費者ニーズも念頭に「表示を要しない」という規定を見直し、原則全ての加工食品に栄養強化目的で使用した食品添加物を表示させる方向で検討することが適当である。
 ただし、その検討に当たっては、現在の表示状況、消費者の意向、事業者への影響について実態調査を実施するとともに、表示の事項間の優先順位、表示可能面積の問題等に関する消費者委員会食品表示部会における「表示の全体像」に関する議論も踏まえ、最終的な結論を得ることが適当であると考えられる。

(4)食品添加物表示の普及、啓発、消費者教育について

<整理の方向性>(一部抜粋)

 行政、消費者団体、事業者団体等それぞれは、表示制度を含む食品添加物に関する普及、啓発を実施しているが、より効果的、効率的に実施をしていくために、行政、消費者団体、事業者団体等がそれぞれの強みを生かして連携し、対象とする世代に応じたアプローチを行うことが適当と考える。特に、消費者庁は、各府省庁と連携し、例えば、食育を通じた取組、学生のみならず学生に教える立場の栄養教諭や栄養士等の専門職を対象とした取組の実施に努めることが望まれる。

今後について


 実態調査の必要な「栄養強化目的」の添加物の表示制度に関する改正と、「無添加」「不使用」等の表示に関するガイドラインの策定にはある程度の期間が必要と思われますが、一方で「人工」「合成」の用語の削除については期間を要することはなく早めに実施されるものと思われます。現状でこうした表示をされている方は、一度検討会議事録に目を通しておかれるとよいと思います。


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機能性表示食品の事後チェック指針案が公表されました

 令和2年(2020年)1月16日、消費者庁より「機能性表示食品に対する食品表示等関係法令に基づく事後的規制(事後チェック)の透明性の確保等に関する指針(案)」が公表され、パブリックコメントの募集が開始されました。科学的根拠として明らかに不適切であると判断される事例のほか、広告その他の表示において問題となるおそれのある事例が示されていることから、機能性表示食品だけでなく一般的な健康食品においても参考になる考え方となっていますので、こちらに取り上げてみたいと思います。

事業者の予見可能性を高め、自主点検に取り組みやすくする


 今回の指針の公表は、平成30年(2018年)11月の規制改革推進会議(内閣府)において、「機能性表示食品の広告規制・事後規制に、事業者が困難をきたしている」と議論されたことが背景となっています。その後同会議における議論を経て今回の指針の公表に至っており、「不適切な表示に対する事業者の予見可能性を高める」とともに「事業者による自主点検及び業界団体による自主規制等の取組の円滑化を図る」ことを主な目的としています。

科学的根拠に関する事項


 指針の第1は、「科学的根拠に関する事項」です。こちらはガイドライン(「機能性表示食品の届出等に関するガイドライン」)と健食留意事項(「健康食品に関する景品表示法及び健康増進法上の留意事項について」)の考え方を踏まえつつ、届出の事後チェックの透明性の確保等に資する観点から、より詳細に示されたものとなっています。

「科学的根拠として明らかに適切とは考えられない具体例」が記載されていますので、以下に一部を抜粋してみます。「合理的に説明できない場合」「不備がある場合」などの内容についてより詳しく記載されていますので、今後、科学的根拠として適切であるかを確認するための基準になるものと思われます。

  • 届出資料において、表示する機能性に見合ったリサーチクエスチョンは設定されているが、表示の内容が、科学的根拠の内容に比べて過大である、又は当該根拠との関係性が認められない場合(例:主要アウトカム評価項目(通常1つを設定)において表示する機能性についての有意な結果が得られていないもの、等)
  • 研究レビューにおける成分と届出食品中の機能性関与成分との同等性が担保されない場合(例:研究レビューで有効性が確認された際の摂取時の形態や剤型と届出食品での形態や剤型が異なる場合において、有効性が確認された機能性関与成分の有効量の同等性が合理的に説明されない場合、等)

広告その他の表示上の考え方について


 指針の第2は、「広告その他の表示」に関する事項です。機能性表示食品の広告その他の表示が、届出された機能性の範囲を逸脱する場合、各法令上問題となるおそれがあります。とりわけ“実際のものよりも著しく優良と示し、又は事実に相違して他の事業者に係るものよりも著しく優良と示す表示“を禁止している景品表示法について、事業者が留意すべき事項が表示要素別に示されています。

届出された機能性の範囲を逸脱して景品表示法上問題となるおそれのある事項(一部抜粋)

(1)解消に至らない身体の組織機能等に係る問題事項等の例示
“届出された食品又は機能性関与成分が有する機能性では解消に至らない疾病症状に該当するような身体の組織機能等に係る不安や悩みなどの問題事項を例示して表示すること”
“当該食品又は当該機能性関与成分が有する機能性ではおよそ得られない身体の組織機能等の変化をイラストや写真を用いるなどにより表示すること”

(2)届出された機能性に係る表示
“届出された機能性の科学的根拠が得られた対象者の範囲が限定されているにもかかわらず、当該対象の範囲外の者にも同様の機能性が期待できるものとして訴求すること”等

(3)実験結果及びグラフ
“試験条件(対象者、人数、摂取方法等)が視認性をもって明瞭に表示されていない”等

(4)医師や専門家等の推奨等
“推奨等が当該食品の効果を全面的に肯定していないにもかかわらず、肯定している部分のみを引用する場合”等

(5)体験談
“断定的な表現を用いて効果を保証するかのような表現を用いたり、治療や投薬等の医療が必要でないかのような表現を用いたりする”等

なお、「体験談」については、以下の記載がある点にも留意が必要です。

「当該体験談を表示するに当たり事業者が行った調査における1.体験者の数及びその属性、2.そのうち体験談と同じような効果が得られた者が占める割合、3.体験者と同じような効果が得られなかった者が占める割合等を明瞭に表示することが推奨される。」

 また同指針の「打消し表示」の項目においても体験談に触れられていますので、広告その他の表示において体験談を使用する場合には、とりわけ確認が必要といえるでしょう。

(6)届出表示又は届出資料の一部を引用した表示
“届出表示の一部を切り出して強調することで、届出された機能性の範囲を逸脱した表示を行う場合”

 以上までが、「不適切な表示に対する事業者の予見可能性を高める」役割を果たす指針になるものと思われます。

施行期日は令和2年(2020年)4月1日の予定


 同指針の最後に、届出資料の不備等の問題が明らかとなった場合において「景品表示法上問題となるものとは取り扱わない」とされる内容が整理されています。その1つに、「機能性表示食品に関する科学的知見及び客観的立場を有すると認められる機関又は組織等において妥当であるとの評価を受けるなど、適切な客観的評価により表示の裏付けとなる科学的根拠が合理性を欠いているものではないと判断されるもの」が記載されていますので、こちらは「事業者による自主点検及び業界団体による自主規制等の取組の円滑化を図る」目的として、今後こうした仕組みづくりが進められるものと思われます。

 パブリックコメントで意見募集中ですが、同指針の案の施行期日は、令和2年(2020年)4月1日と予定されています。機能性表示食品を取り扱う方だけでなく、一般的な健康食品を取り扱う方にも影響のある指針と思われますので、一度確認をされておくとよいと思います。


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2019年の主な食品表示ニュースと今後の予定

 あけましておめでとうございます。本年もどうぞ、お付き合いのほどよろしくお願いいたします。
 さて昨年も食品表示に関する様々な出来事がありました。今年、2020年は食品表示基準の経過措置期間が終了する年でもありますので、今後どのような予定になっているのかをあらためて確認する機会にしていただければと思います。

昨年の主なニュース


 食品表示業務を担当される方にとって最も大きな関心ごととなったのは、やはり2019年9月にアレルゲン推奨品目にアーモンドが追加されたことかと思います。主に「食品表示基準」、「食品表示基準について(通知)」、「食品表示基準Q&A」を中心に、関連する基準等の改正とその概要についてこちらに整理してみました。

2019年 3月 食品表示基準Q&A第6次改正(「栄養成分表示者」※1等の記載)
機能性表示食品の届出等に関するガイドライン改正
(「軽症者を含むデータ」※2等の記載)
機能性表示食品に関する質疑応答集改正(「専ら医薬品成分本質リスト」※3等の記載)
冠表示における原料原産地情報の提供に関するガイドライン公表※4
4月 食品表示基準改正(遺伝子組換え表示制度※5)
第1回食品添加物表示制度に関する検討会開催※6
6月 特別用途食品、特定保健用食品の表示許可等に関する事務手続きの改正
9月 食品表示基準について 第17次改正(「アーモンド」※7等の記載)
食品表示基準Q&A 第9次改正
(「アーモンド」※7、「ゲノム編集技術応用食品」※8等の記載)
※1. 小規模の事業者が製造した食品について、小規模でない事業者が栄養成分表示を追記することが可能
※2. 被験者に軽症者が含まれたデータの使用を例外的に認める範囲について別紙として通知
※3. 医薬品に該当しない限り「専ら医薬品として使用される成分本質(原材料)リスト」内の関与成分も対象
※4. 「冠表示」となる原材料については重量順位にかかわらず自主的な原産地等の表示を推進
※5. 「遺伝子組換えでない」「非遺伝子組換え」は、遺伝子組換え農産物が混入しない場合に限り表示可
※6. 2020年3月末までに最終報告予定、とりわけ「〇〇無添加」「〇〇不使用」表示には留意必要
※7. 特定原材料に準ずるものへの「アーモンド」の追加により、特定原材料等の品目数を27から28へと変更
※8. 遺伝子組換え食品に該当しないゲノム編集技術応用食品及び原材料への表示は義務としない

 また、多くの「表示に関する公正競争規約」が改正され、そして「食品のりの表示に関する公正競争規約」が廃止されましたので、あらためて整理してみます。

◆2019年に改正された公正競争規約:
ナチュラルチーズ・プロセスチーズ及びチーズフード、アイスクリーム類及び氷菓、果実飲料等、コーヒー飲料等、凍り豆腐、包装食パン、しょうゆ、食用塩、観光土産品、はちみつ類、輸入ビール、ウイスキー、輸入ウイスキー、泡盛、単式蒸留焼酎

◆食品表示基準施行(2015年)以降に廃止された公正競争規約:
殺菌乳酸菌飲料(2018年廃止)、合成レモン(2018年廃止)、食品のり(2019年廃止)

今後の予定


 最後に、今年3月末までとなった食品表示基準(加工食品)の経過措置期間終了のほか、今後数年の間に変更が予定されている表示関連情報をまとめてみました。

2020年3月31日 「食品表示基準」の経過措置期間(加工食品、添加物)(製造所固有記号)終了
2021年6月1日 「食品表示法の一部を改正する法律」の施行期日(自主回収報告の義務化)
2022年3月31日 新たな原料原産地表示制度 経過措置期間終了
2021年~2022年※ 「くるみ」のアレルゲン義務表示品目への移行予定

※2019年7月、くるみの義務表示品目への指定については「実行担保の観点から、試験方法の開発と妥当性評価が必要」等の検討課題が整理されているため、2~3年後の施行を目途に準備が進められています。

 なお、2019年8月には「食品表示の全体像に関する報告書(消費者委員会食品表示部会)」も発表されました。「分かりやすさ」や「ウェブ」についての考え方も整理されていますので、今後よりよい表示を模索されたい方は一度目を通されたうえで、今後の予定について検討されるとよいのではと思います。


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添加物の「無添加」「不使用」の表示の在り方について~食品添加物表示制度に関する検討会より~


 2019年11月1日、消費者庁において第6回「食品添加物表示制度に関する検討会」が開催されました。2019年4月に始まった同検討会において、これまでの議論のなかでも主に話し合われている「無添加」「不使用」表示の在り方について、こちらでもとりあげてみたいと思います。

添加物の「無添加」「不使用」表示の現状


 まず無添加、不使用に関する表示の規則の現状についてですが、同検討会の消費者庁資料「論点の整理(第4回検討会 資料2の修正版)」において、以下のようにまとめられています。 (ただし「食品表示基準」における整理であり、その他に公正競争規約(景品表示法第31条に基づく協定又は規約)にもこうした無添加、不使用に関する表示の規則があります。)

  • 「実際のものより著しく優良又は有利であると誤認させる用語」、「その他内容物を誤認させるような文字、絵、写真その他の表示」は表示禁止事項とされている(食品表示基準第9条第1項第1号、第13号等)。
  • ただし、糖類及びナトリウム塩については、特定の要件を満たす場合に限り、「添加していない旨」を表示することが許容されている(食品表示基準第7条)。
  • 通常同種の製品が一般的に添加物が使用されているものであって、当該製品について添加物を使用していない場合に、添加物を使用していない旨の表示をしても差し支えないという制度運用を行っている(食品表示基準Q&A(令和元年7月1日最終改正)加工-90)。

 上記のうち、表示禁止事項とされている「実際のものより著しく優良又は有利であると誤認させる用語」、「その他内容物を誤認させるような文字、絵、写真その他の表示」(食品表示基準第9条第1項第1号、第13号等)については、食品表示基準Q&A(加工-281)に解釈が掲載されています。

(加工-281)表示禁止事項の「実際のものより著しく優良又は有利であると誤認させる用語」、「その他内容物を誤認させる文字、絵、写真、その他の表示」とは、どのようなものですか。

(答)

  1. 加工食品の表示禁止事項は、第3条、第4条、第6条及び第7条(名称、原材料、添加物等)に関連するものに限定されます。
  2. 具体的には、例えば、以下のものが該当します。
    • 特定の原産地のもの、有機農産物など、特色のある原材料を一切使用していないにもかかわらず、当該特色のある原材料を使用した旨の強調表示
    • 産地名を誤認させる表示
    • 添加物を使用した加工食品に「無添加」と表示

出典:食品表示基準Q&A(加工-281)

 同検討会の消費者庁資料「追加資料(第5回検討会の整理)(論点3関連)」においては、「Q&A加工-281は、第9条(表示禁止事項)の解釈を網羅的に示したものではない」とし、「食品表示基準第9条の表示禁止事項に当たるかどうかを判断するためのメルクマールとなるものが必要ではないか」とまとめています。

ガイドラインの策定とQ&Aの見直しの検討


 同追加資料には、問題とされている「無添加」「不使用」表示についても整理されています。関連して、見直しの可能性があると思われる食品表示基準Q&A(加工-90)については、あらためて確認をしておくとよいでしょう。

  • 表示を要さない加工助剤を添加物として使用しているにもかかわらず、添加物不使用と表示すること。
    ➡ 第9条第1項第13号に抵触する可能性(Q&A加工-90)
  • 単に「無添加」と表示すること
    ➡ 第9条第1項第2号に抵触する可能性
    ➡ 糖類、ナトリウム塩不使用との表示と紛らわしい場合もあるという問題は存在するものの、消費者がどのような意識で単なる「無添加」を認識しているのかということも考慮する必要がある。

(加工-90)「添加物は一切使用していません」、「無添加」などと表示をすることはできますか。

(答)

  1. 通常同種の製品が一般的に添加物が使用されているものであって、当該製品について添加物を使用していない場合に、添加物を使用していない旨の表示をしても差し支えないと考えます。
    なお、加工助剤やキャリーオーバー等で表示が不要であっても添加物を使用している場合には、添加物を使用していない旨の表示をすることはできません。また、「無添加」とだけ表示することは、何を加えていないかが不明確なので、具体的に表示することが望ましいと考えます。
  2. さらに、同種の製品が一般的に添加物が使用されることがないものである場合、添加物を使用していない旨の表示をすることは適切ではありません。

出典:食品表示基準Q&A(加工-90)

 取り得る手段の案としては「Q&Aの見直し・追加」のほか、「ガイドラインの策定」など通知による指針の提示が、有力な案として検討されています。その際に、無添加・不使用とあわせて使用されている「合成」「人工」や「化学調味料」などの用語についても整理される見通しです(食品表示基準別表第六からの該当用語の削除、通知による指針の提示等)。
 また検討会では、ガイドライン策定の際の参考としてコーデックスの無添加・不使用表示に関する基準に言及もされていました。「強調表示に関するコーデックス一般ガイドライン 5.1(vi)」 (CAC/GL 1-1979)には、「通常、当該食品中に存在すると消費者が予期していること」「同程度に顕著な表現で明示されている場合を除き、当該食品に同等な特質を与える他の物質により代替されていないこと」などの基準がありますので、この機会にあわせて確認しておくとよいでしょう。

今後の予定


 第7回検討会は、12月19日に開催される予定です。計画では2019年度末まで(早ければ年末まで)に報告書のとりまとめをするとされていますが、業務においてこうした強調表示に関する確認を担当されている方は、議論の背景などを知っておくためにも、検討会資料に一度目を通しておかれるとよいと思います。


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「食品表示基準について」「食品表示基準Q&A」が改正されました~アレルゲン表示推奨にアーモンド追加、ゲノム編集応用技術食品の表示等~


 2019年9月19日、消費者庁は「食品表示基準について」「食品表示基準Q&A」の改正を発表しました。主な改正内容としては、特定原材料に準ずるものにアーモンドの追加、ゲノム編集技術応用食品の表示に関する規定の追加、などが挙げられますが、詳細を以下に整理してみたいと思います。

「食品表示基準について」の主な改正点


 こちらの通知では、主にアーモンドに関するアレルゲン表示の規則が改正されています。その他では、「落花生」の代替表記扱いであった「ピーナッツ」を、落花生と同一の表示として位置づけています。また特定原材料等の品目数を、27品目から28品目へと修正しています。

  • 特定原材料に準ずるもの・・・「アーモンド」の追加
  • 別表1 特定原材料等の範囲
  • 特定原材料等 分類番号(1) 分類番号(2) 大分類 中分類 小分類
    アーモンド 69 8593 殻果類 その他の殻果類 アーモンド
  • 別表2 特定原材料等由来の添加物についての表示例
  • 特定原材料に準ずるものの名称 区分 添加物名 特定原材料に準ずるものの表示 備考
    アーモンド
  • 別表3 特定原材料等の代替表記等方法リスト
  • 通知で定められた品目 代替表記 拡大表記(表記例)
    表記方法や言葉が違うが、特定原材料に準ずるものと同一であるということが理解できる表記 特定原材料に準ずるものの名称又は代替表記を含んでいるため、これらを用いた食品であると理解できる表記例
    アーモンド   アーモンドオイル

    参照:「別添 アレルゲンを含む食品に関する表示」

     アレルゲン以外の表示に関する内容においても、いくつかの文言の修正点もありますので、詳しくは「新旧対照表」を確認してください。

    「食品表示基準Q&A」の主な改正点

     まずは、上記のアーモンドに関する改正から確認してみましょう。アーモンドの「範囲」と「猶予期間」について、改正内容を引用します。

    (D-8)特定原材料に準ずるものの「アーモンド」の範囲を教えてください。
    (答)
    「アーモンド」は、スイート種とビター種がありますが、主に食用にされるスイート種だけでなく、ビター種も対象となります。また、アーモンドオイル、アーモンドミルク等もアレルゲンとなるので注意が必要です。

    (I-9)令和元年9月に「アーモンド」が特定原材料に準ずるものに追加されましたが、いつまでに表示する必要がありますか。また、包装資材の切替え等の猶予期間等はあるのですか。
    (答)
    食品表示基準附則第4条に基づく経過措置期間が令和2年3月31日に終了するため、新たな表示制度に対応して各食品関連事業者による包装資材の切替えが進んでいます。また、アーモンドの追加は特定原材料でなく、特定原材料に準ずるものとしての追加です。このため、アレルゲンとしてアーモンドの表示を行うのであれば、可能な限り速やかに行うことが望ましいですが、取扱食品の包装資材の切替状況等を勘案し、各食品関連事業者の判断で表示時期を決めていただくことになります。
    また、アーモンドを取り扱う食品関連事業者がアレルゲンの表示を適切にするためには、原材料供給事業者等、流通段階での管理状況も重要であるため、事業者間における管理状況の情報共有も可能な限り速やかに実施してください。

     切替については「可能な限り速やかに」「各食品関連事業者の判断で」行うことになりますが、原材料規格書にて確認できることが前提となりますので、原材料供給をされる方は早めの対応が求められると思われます。また原材料に輸入食品が使用されている場合、海外では「Tree Nuts(木の実)」といった総称で管理されていることも多いため、くるみ、カシューナッツ、アーモンドは含まれるかどうか等、個別に確認する必要がある点に留意が必要です。

    次に、ゲノム編集技術応用食品に関する表示のQ&Aも新設されています。

    1. ゲノム編集技術応用食品とはどのような食品ですか。
    2. ゲノム編集技術応用食品は食品表示基準に基づく遺伝子組換え表示制度の対象となりますか。
    3. 遺伝子組換え食品に該当しないゲノム編集技術応用食品に関連する表示をすることはできますか。
    4. 「ゲノム編集技術応用食品でない」旨を表示することはできますか。また、表示する場合に気を付けることはありますか。
    5. 遺伝子組換え食品に該当しないゲノム編集技術応用食品に、「遺伝子組換えでない」と表示することはできますか。

     回答は長文ですので、要約すると以下のようになります。

    • ゲノム編集技術応用食品には、利用した技術が食品衛生法上の組換えDNA技術に該当するもの(食品表示基準上の遺伝子組換え食品に該当するもの)と該当しないものがある。
    • 組換えDNA技術を利用して得られた食品は、遺伝子組換え食品として、食品表示基準に基づく遺伝子組換え表示制度に従い表示を行う。一方、組換えDNA技術を利用していないものは遺伝子組換え食品に該当しないため、このようなゲノム編集技術応用食品は食品表示基準に基づく遺伝子組換え表示制度の対象外となる。
    • 遺伝子組換え食品に該当しないゲノム編集技術応用食品及びそれを原材料とする加工食品について、食品関連事業者に表示を義務付けることは現時点では妥当でない。
    • 「ゲノム編集技術応用食品でない」と表示することについては、それが適切になされる限りにおいて、特に禁止されるものではない。
    • (遺伝子組換え食品に該当しないゲノム編集技術応用食品への)「遺伝子組換えでない」旨の表示は、食品表示基準の規定に従って表示すること。

     以上が、ゲノム編集技術応用食品に関する表示Q&Aです。全文については食品表示基準Q&A「別添 ゲノム編集技術応用食品に関する事項」、もしくは「新旧対照表」をご確認ください。

     食品表示基準Q&Aの改正としては、その他、チョコレートについては調温(テンパリング)が行われた国を原産国とすること、合挽肉等には十分に加熱する必要があることの情報提供が求められること、食肉の部位名については公正競争規約等により表示すること、などの改正がされています。関係する食品を取り扱いされる方は、一度目を通しておかれるとよいでしょう。


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製造所固有記号の届出について~切り替えが必要な場合は、年内の届出を~

 2019年8月9日、消費者庁は「製造所固有記号制度の運用に係る周知・普及について」を通知し、新制度に基づく固有記号が必要な場合は、12月27日(金)までの届出をするよう呼び掛けています(届出が集中しており、それ以降に届出されたものの審査完了が経過措置期間をまたぐ可能性があるため)。今回の通知内容に加えて、製造所固有記号制度の運用の改正について、あらためてこちらにまとめてみたいと思います。

通知の内容


 今回の通知内容は、以下のとおりです。

  • 経過措置期間終了(2020年3月31日)後に製造される食品は、新制度に基づく表示を付す必要がある
  • 製造所固有記号も従来の固有記号は使用できなくなるため、新制度に基づく固有記号の届出を行う必要がある
  • 固有記号を使用予定であるが、まだこの届出を行っていない食品関連事業者は、速やかに届出を行う必要がある

 平成27年4月1日に施行された、食品表示法(平成25年法律第70号)に基づく食品表示基準(平成27年内閣府令第10号。以下「新制度」という。)につきましては、経過措置期間が令和2年3月31日をもって終了となり、経過措置期間終了後に製造される食品は新制度に基づく表示を付す必要があります。
 現在、食品関連事業者におかれましては、新制度に基づく表示を付した包装資材の切替えに向け、順次御対応いただいているところと承知しておりますが、製造所固有記号(以下「固有記号」という。)についても従来(平成28年3月31日以前)の固有記号は使用できなくなるので、引き続き使用する場合は、新制度に基づく固有記号の届出を行う必要があります。そのため、従来の固有記号を使用予定であるが、まだこの届出を行っていない食品関連事業者は、速やかに届出を行う必要があります。
 なお、経過措置期間の終了が目前に迫り、現在、固有記号の届出が集中しており、その処理に時間を要しております。そのため、これから届出を行う食品関連事業者につきましては、期間に十分な余裕をもって届出をしてください。現在の届出件数と処理状況から、令和元年12月27日(金)までに届出されたものに関しては、令和元年度内に審査が完了いたしますが、それ以降に届出されたものについては、審査完了が年度をまたぐ可能性があることを申し添えます。

引用:「製造所固有記号制度の運用に係る周知・普及について」より

 経過措置期間終了後も製造所固有記号を使う予定のある人で、まだ届出していない人は、年内に届出をしてください、ということです。ただし、こちらは「経過措置期間終了後も製造所固有記号が使用できる」場合に限ります。2016年4月1日に始まった新制度では、製造所固有記号を使用できる条件が改正されていますので、こちらに改正点を再確認してみましょう。

新制度に基づく固有記号について


 新制度における製造所固有記号は、包材の共有化のメリットが生じる場合にのみ認められることになりますので、原則として、同一製品を2以上の工場で製造する場合に限り利用可能(業務用食品を除く)です。「同一製品を2以上の工場で製造する場合」については、以下に詳しい説明があります。

製造所固有記号の表示は、原則として同一製品を2以上の製造所で製造している場合のように、包材の共有化のメリットが生じる場合にのみ認められます。 

引用:「食品表示基準Q&A」 別添 製造所固有記号(固有記号-1)3より

  1. 「同一製品」とは、同一の規格で同一の包材を使用した製品をいう。
  2. 「同一製品を二以上の製造所で製造している場合」とは、製造所固有記号の届出時に、次の2つの要件を満たすものとする。
    1. 2以上の製造所が、それぞれ、食品の衛生状態を最終的に変化させる場所であること。
    2. 製造所固有記号の使用によって包材が共有化されること

引用:「食品表示基準について」(加工食品)1 義務表示事項(6)5より

 上記の要件に当てはまらない場合は、新制度の下では製造所固有記号を使用できません。つまり、新制度移行前に製造所固有記号を使用していた場合で、上記要件を満たさない場合は、新制度においては製造所固有記号を使用することができず、製造者等の表示が必要になる、ということになります。
 なお、「同一製品を2以上の製造所で製造している場合」の具体的な考え方については、食品表示基準Q&Aの記載を参照してください。回答を要約すると、1.は「該当しません」、2.、3.は「製造計画書を添付して届け出るのであれば該当します」、4.は「届出時は該当しますが、1工場になった時点で製造所固有記号の使用を止め、記号の廃止の届出を行う必要があります」、となります。

以下の場合は、「同一製品を二以上の製造所で製造している場合」に該当しますか。

  1. 中間加工原料を製造する工場と、その後、それを用いて最終製品を製造する工場の2工場で製造する場合
  2. 繁忙期(例えば、年末の1~2か月間)だけ、2以上の工場で製造する場合
  3. 新商品について、売行きがよい場合には、2以上の工場で製造する予定がある場合
  4. 届出時には2以上の工場で製造しているが、届出の有効期間内に製造を縮小し、いずれ1工場で製造する予定がある場合

引用:「食品表示基準Q&A」 別添 製造所固有記号(固有記号-11)より

製造所固有記号を使用できる場合には

 新制度の下で製造所固有記号を使用できる場合には、以下の対応が必要となります。

  • 新制度に基づく固有記号の届出をすること
  • 表示の際には製造所固有記号に「+」を冠すること
  • 次のいずれかの表示をすること
    1. 製造所所在地等の情報提供を求められたときに回答する者の連絡先
    2. 製造所所在地等を表示したWebサイトのアドレス等
    3. 当該製品の製造を行っている全ての製造所所在地等

 該当する方は、一度通知を確認のうえ、早めの届出をされるとよいでしょう。


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アレルゲンの推奨表示対象に“アーモンド”を追加 “くるみ”は推奨から義務化へ


 2019年7月5日、内閣府消費者委員会食品表示部会において、消費者庁は「アーモンドの推奨表示対象への追加」と「くるみの義務表示対象品目への指定」する方針を公表しました。改正の背景と、今後の予定についてまとめてみたいと思います。

背景と調査結果について


 2019年5月31日、「即時型食物アレルギーによる健康被害の全国実態調査」(平成30年度(2018年度)調査)の結果をとりまとめた報告書(「食物アレルギーに関連する食品表示に関する調査研究事業報告書」)が発表されました。概ね3年ごとに実施されている定期的な調査ですが、前々回調査(平成24年度(2012年度))、前回調査(平成27年度(2015年度))と比較し、アーモンドとくるみの症例数が増加している点が、改正の背景にあります。
 
 報告書をもとにした考察は、以下のとおりまとめられています。

<アレルギー物質を含む食品の表示について「考察および結論」より>

  • 全症例において特定原材料7品目は77.0%(3,733名)を占め、特定原材料等20品目を含めると94.5%(4,584名)を占めた。また、ショック症例524名において、特定原材料7品目は76.5%(401名)、特定原材料等20品目を含めると94.0%(493名)を占めた。以上は特定原材料等27品目が、我が国のアレルギー食品表示の管理対象として十分なカバー率であることの証左である。
  • アーモンドは前回調査でも、特定原材料等でカバーされない食物の中で一番多く、2期連続して特定原材料等でない中で最も多かった。アーモンドは、これまでに中途より特定原材料等に格上げとなったバナナ、カシューナッツ、ゴマと比べても、症例数においても十分に多いといえる。

これらの結果から、今後アーモンドの推奨表示対象への追加を検討する必要性が示される。また、クルミを筆頭とした木の実類アレルギー患者の急激な増加は注視しておく必要がある。

<アレルギー物質を含む食品の表示について「検討課題」より>

原因食物 区分 24年度 27年度 30年度 対応
くるみ 即時型症例数 40 74 251 義務化を視野に入れた検討
ショック症例数 4 7 42
アーモンド 即時型症例数 0 14 21 推奨品目への追加検討
ショック症例数 0 4 1

現状の制度について


 食品表示基準における「アレルゲン表示」とは、特定のアレルギー体質をもつ消費者の健康危害の発生を防止する観点から、過去の健康危害等の程度、頻度を考慮し、加工食品等へ特定原材料を含む旨の表示を規定したものです。

 特定原材料等は、「特定原材料(義務7品目)」と「特定原材料に準ずるもの(推奨20品目)」に区分され、それぞれ以下のとおりの品目が対象となっています。

特定原材料等 理由 表示の義務
特定原材料 えび、かに、小麦、そば、卵、乳、落花生 特に発症数、重篤度から勘案して表示する必要性の高いもの 表示義務
特定原材料に準ずるもの あわび、いか、いくら、オレンジ、カシューナッツ、キウイフルーツ、牛肉、くるみ、ごま、さけ、さば、大豆、鶏肉、バナナ、豚肉、まつたけ、もも、やまいも、りんご、ゼラチン 症例数や重篤な症状を呈する者の数が継続して相当数みられるが、特定原材料に比べると少ないもの 表示を奨励
(任意表示)

 なお、表示方法は、以下のとおりです。(原則、個別表示。例外として、一括表示が可。)

<表示例:個別表示>

原材料名:じゃがいも、にんじん、ハム(卵・豚肉を含む)、マヨネーズ(卵・大豆を含む)、たんぱく加水分解物(牛肉・さけ・さば・ゼラチンを含む)/調味料(アミノ酸等)

<表示例:一括表示>

原材料名: じゃがいも、にんじん、ハム、マヨネーズ、たんぱく加水分解物/調味料(アミノ酸等)、(一部に卵・豚肉・大豆・牛肉・さけ・さば・ゼラチンを含む)

今後の予定


 くるみの義務表示品目への指定については「今回の症例数が一過性のものでないかの確認が必要」「義務表示対象品目に指定する場合、実行担保の観点から、試験方法の開発と妥当性評価が必要」と検討課題が整理されているため、2~3年後の施行を目途に準備が進められています。アーモンドの推奨表示への追加については、早ければ今年の秋に施行される見込みです。

 現状ですべての商品において推奨表示対象を含めた27品目を表示している場合は、規格書管理の段階から「アーモンド」の項目の追加をする必要があります。また海外の多くの国のアレルゲン表示制度では、くるみやカシューナッツ、アーモンド等を「Tree Nuts(木の実)」として表示するため、原材料規格書も多くの場合でTree Nutsとして管理されています。とりわけ海外からの輸入原材料を使用する場合、また海外から食品を輸入する場合には、注意が必要な改正と言えますので、消費者庁資料「アレルギー物質を含む食品の表示について」を早い段階で確認されるとよいでしょう。

 なお、「アレルギー物質を含む食品の表示について(消費者庁)」は内閣府消費者委員会のホームページ上で、「食物アレルギーに関連する食品表示に関する調査研究事業報告書」は消費者庁のホームページ上に掲載されています。全症例数における各原因食品(鶏卵、牛乳、小麦等)の割合や、症例別(即時型症状、ショック症状)の原因食品の割合などの調査結果を見ることができます。食品表示の実務担当者におかれては、規則改正情報や原材料情報などの技術的な情報の把握も大切ですが、こうした改正の背景となる実態の情報について、正しく知っておくことが表示ミスを防ぐことと、事故時の対応により役立つものとなるのではと思います。


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ゲノム編集技術応用食品の表示の在り方について ~消費者庁、表示義務化は難しいという認識を示す~


 2019年6月20日、消費者庁は、内閣府食品安全委員会食品表示部会において、ゲノム編集技術応用食品への表示義務化は難しいとの認識を示しました。同部会において消費者庁より示された資料「ゲノム編集技術応用食品の表示の在り方について」をもとに、概要を整理してみたいと思います。

背景


 2019年夏頃を目途に、厚生労働省ではゲノム編集技術応用食品の食品衛生上の取扱いを具体化し、運用を開始する予定です。そして運用開始後には、事業者によるゲノム編集技術応用食品の流通が想定されるため、ゲノム編集技術応用食品の表示の在り方についても、同じタイミングで整理し、検討することが必要となったことが背景にあります。

 表示制度を考えるに当たっては、1. 消費者の意向、2. 表示制度の実行可能性、3. 表示違反の食品の検証可能性、4. 国際整合性について、十分に考慮することが必要とされており、これらのポイントについて、食品表示部会において議論がなされたうえで、表示義務化は難しいという認識が示された形となりました。

ゲノム編集技術とは


 一般に、DNAを切断する酵素を用いて、外部からの遺伝子の挿入だけでなく、既存の遺伝子の欠失や塩基配列の置換など、ゲノムの特定の部位を意図的に改変することが可能な技術のことです。ここで、「ゲノム編集技術」について、整理してみたいと思います。厚生労働省が作成した資料「ゲノム編集技術とその応用食品等の取扱い」をもとに、「従来の育種技術」「ゲノム編集技術」「組換えDNA技術」をまとめると、以下の表のようになります。

      ゲノム編集技術応用食品等の取扱い
従来の育種技術(突然変異誘発技術) 放射線照射や薬剤により人為的にランダムに不特定のDNAを切断し、自然修復の過程で生じた変異を得る 事業者で安全を確保(特段の規制なし)
ゲノム編集技術 【タイプ1】標的DNAを切断し、自然修復の過程で生じた変異を得る   届出
【タイプ2】標的DNAを切断し、併せて導入したDNAを鋳型として修復させ、変異を得る   届出/安全性審査
【タイプ3】標的DNAを切断し、併せて導入した遺伝子を組込むことで変異を得る   安全性審査
組換えDNA技術(いわゆる「遺伝子組換え」) 細胞外で組換えDNA分子を作製し、それを生細胞に移入し、細胞に組込む(増殖させる)ことで変異を得る 安全性審査を義務づけ

出典:ゲノム編集技術とその応用食品等の取扱い(厚生労働省)
※この概念図は、各タイプの代表となるケースとその取扱いを示したものであることに留意が必要。

表示の在り方について


  パブリックコメントの結果や消費者庁への要望書によると、消費者の中には、ゲノム編集技術応用食品に対する懸念や不安から、消費者が選択できる表示を求める声があり、例えば「消費者が自主的に選択できるよう合理的かつ全面的な表示制度を要望する」など、様々な意見があります。
しかし、表示制度の企画立案や運用に当たっては、実際に表示を行う食品関連事業者が対応できる仕組みにすることが必要とされています。例えば、1. 使用する原材料について、ゲノム編集技術応用食品かどうかの情報を把握することが可能かどうか、2. 原料管理を徹底するための設備や人材確保等の整備に要する事務負担が過度なものとならないか、などを考慮する必要があります。
 
 そして表示義務化は難しいという認識を示した大きな課題は、「表示違反の食品の検証可能性」にあります。遺伝子組換え食品に該当しないゲノム編集技術応用食品については、現時点では、ゲノム編集技術によって得られた変異と従来の育種技術によって得られた変異とを判別し検知するための実効的な検査法の確立は困難であるためです。(なお、遺伝子組換え食品に該当するゲノム編集技術応用食品の場合、導入された外来遺伝子を科学的に検知することが可能。)
 また現時点では、ゲノム編集技術応用食品の表示について、具体的なルールを定めて運用している国・地域はないとされていることも、こうした課題を裏付けるものになったものと思われます。

今後について


 消費者庁資料「ゲノム編集技術応用食品の表示の在り方について」においては、「ゲノム編集技術応用食品のリスクコミュニケーション」として、以下のようにまとめています。

  • ゲノム編集技術応用食品は新たな技術を用いたものであり、消費者が漠然とした不安を持っていると思われるため、その内容や従来から品種改良に用いられてきた組換えDNA技術との違いなどについて、正確に消費者に伝えることが必要。
  • 薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会新開発食品調査部会報告書にも記載されているように、消費者庁としても、厚生労働省や農林水産省と連携して、7月上旬からリスクコミュニケーションの実施に取り組む予定。

 義務づけは難しいとの認識を示したものの、同部会での意見を踏まえ、7月より各地で意見交換会が行われる予定です。関心のある方は、一度部会資料に目を通しておかれるとよいでしょう。


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