「遺伝子組換え表示制度に関する検討会」について

By | 2017年6月2日


 今月は、4月より検討会が始まった「遺伝子組換え表示」をテーマに取り上げてみたいと思います。

検討会の背景と概要


2017年4月26日、第1回目の「遺伝子組換え表示制度に関する検討会」が開催されました。同検討会では、遺伝子組換え表示制度について表示義務品目の検証結果と海外の表示制度等を参考に、事業者の実行可能性を確保しつつ、消費者が求める情報提供を可能とする制度設計の検討を進めることになっています。

現状の表示制度の整理


ここで、簡単に現状の表示制度を整理してみます。まず表示義務の対象となる品目は、食品表示基準別表第十六の「8作物(大豆(枝豆及び大豆もやしを含む)、とうもろこし、ばれいしょ、なたね、綿実、アルファルファ、てん菜、パパイヤ)」と、別表第十七の「8作物を原材料とした33食品群」、そして別表第十八の「高オレイン酸遺伝子組換え大豆及びこれを原材料として使用した食品等」です。別表は、“食品表示基準”を参照してください。

義務表示と任意表示を整理すると、次のような構造となります。加工食品については、その主な原材料について表示が義務付けられています。主な原材料とは、原材料の重量に占める割合の高い原材料の上位3位までのもので、かつ、原材料の重量に占める割合が5%以上のものをいいます。製造時に水を添加した場合は、添加した水は原材料として換算しません。遺伝子組換え農産物が主な原材料(原材料の重量に占める割合の高い原材料の上位3位以内で、かつ、全重量の5%以上を占める)でない場合は、表示義務はありません。

「従来のものと組成、栄養価等が同等か」

  • 同等である
    • 「遺伝子組換えのものを分別し、原材料とするもの」・・・義務表示
      例:大豆(遺伝子組換え)等
    • 「遺伝子組換え不分別」・・・義務表示
      例:大豆(遺伝子組換え不分別)等
    • 「遺伝子組換えでないものを分別し、原材料とするもの」・・・任意表示
    • 「DNA・たんぱく質が検出不可」・・・任意表示
  • 同等ではない(高オレイン酸遺伝子組換え大豆及びこれを原材料として使用した食品等)・・・義務表示
    例:大豆(高オレイン酸遺伝子組換え)等

「遺伝子組換えでない」の表示は、分別生産流通管理が適切に行われていれば、一定(大豆及びとうもろこしについて5%以下)の「意図せざる混入」がある場合でも表示をすることができます。

「遺伝子組換え不使用」といった強調表示をする場合は、全ての原材料について分別生産流通管理が行われている必要があります。例えば、「ばれいしょ」と「大豆油」が使用されている食品について、「大豆油」は表示品目の対象外ではありますが、商品に「遺伝子組換え不使用」と表示する場合には、大豆油の原料の大豆が分別流通管理されていることを確認のうえ、「原材料名:ばれいしょ(遺伝子組換えでない)、大豆油(遺伝子組換えでない)」と表示することになります。また、対象農作物以外において「遺伝子組換えではありません」等と表示することは禁止されています。

なお、遺伝子組換え農作物は「安全性審査」で承認されたものだけが国内に流通する仕組みになっています。とりわけ輸入食品においては、使用されている原材料が安全性審査で承認されたものであるかどうかの確認業務が必要となります。

検討会での確認事項


遺伝子組換え表示の制度は、導入から約15年が経過しています。この間に、遺伝子組換え食品のDNA等に関する分析技術が向上している可能性や、遺伝子組換え農産物の作付面積の増加により流通の実態が変化している可能性があるとして、第1回目の検討会では現在の状況について整理がされました。

各種の資料が配布されましたが、検討課題を分かりやすく示すものを以下に引用します。

“大豆について、国際価格高騰の影響等により1998年と比べて2015年の輸入量が減少しているが、大豆、とうもろこし共に、1998年、2015年のいずれの時点でも、我が国の最大の輸入国は米国である。米国における遺伝子組換え農産物の作付面積割合は、大豆、とうもろこし共に、17年間で25%程度から90%以上に拡大している。”
“なたねについて、1998年、2015年のいずれの時点でも、我が国の最大の輸入国はカナダである。カナダにおける遺伝子組換え農産物の作付面積割合は、17年間で40%弱から90%以上に拡大している。”
“日本では、最終製品において組み換えられたDNA等が検出できない品目については、義務表示の対象外としており、韓国やオーストラリア等も同様である。EUでは、DNA等の検出の可否にかかわらず、表示が義務付けられている。
意図せざる混入率は、国によりそれぞれ異なっており、日本では5%、EUでは0.9%となっている。なお、米国については、現在のところ、詳細は不明である。”

DNA・タンパク質が検出できるもの DNA・タンパク質が検出できないもの 意図せざる混入率 表示義務の原材料の範囲
日本 対象外 5% 原材料の重量に占める割合が高い原材料の上位3位までのもので、かつ、原材料及び添加物の重量に占める割合が5%以上であるもの
韓国 対象外 3% 全ての原材料
オーストラリア・ニュージーランド 対象外 1% 規定なし
EU 0.9% 規定なし

引用:「資料2 遺伝子組換え食品の表示制度をめぐる情勢」より

課題と今後のスケジュール


議論された内容のうち、今後の検討課題となりそうな箇所をピックアップしてみます。

  • 消費者にとって遺伝子組換え表示制度というものが十分に浸透していない
  • 「遺伝子組換えは使用していません」という任意の不使用表示のみが流通している
  • 遺伝子組換え食品の安全性についての情報や理解が十分でない
  • 意図せざる混入率の基準を引き下げることの影響はかなり大きい

今後、まずは消費者、製造や流通の事業者などからのヒアリングが予定されています。取りまとめは、今年度末(2018年3月末)を目途に行われるスケジュールですので、定期的に検討会の情報を確認のうえ、今後求められることを考える機会にできればと思います。

参照:遺伝子組換え表示制度に関する検討会(消費者庁)
http://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/other/genetically_modified_food.html

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川合 裕之

代表取締役社長株式会社ラベルバンク
食品表示検査業をしています。国内と海外向けに、食品表示検査と原材料調査サービスを提供している経験をもとに、食品表示実務に関する講演をしています。

■職歴・経歴
1974年 岡山県生まれ
食品メーカー勤務後、2003年に食品安全研究所(現株式会社ラベルバンク)を設立。
「分かりやすい食品表示」をテーマとし、「食品表示検査・原材料調査」などの品質情報管理サービスを国内から海外まで提供しています。また、定期的に講演活動も行っています。

■主な著作物・寄稿ほか
【共著】
『新訂2版 基礎からわかる食品表示の法律・実務ガイドブック』 (第一法規株式会社, 2023)

【寄稿】
・2024年 第65巻 第4号 『食品衛生学雑誌』(公益社団法人日本食品衛生学会)「海外輸出向け食品における各国基準(添加物、栄養成分表示)の調査と実務上の課題」
・2021年10月『Wellness Monthly Report』(Wellness Daily News)40号
「食品表示関連規則の改正状況 今後の『食品表示』実務上のポイント」
・2020年2月『月刊 HACCP』(株式会社鶏卵肉情報センター)「アレルゲン表示の現状と留意点」
・2017年~2018年連載 『食品と開発』(UBMジャパン)「表示ミスを防ぐための食品表示実務の大切なポイント~」

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【講義】
・2009~2014年 東京農業大学生物産業学部 特別講師

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