「遺伝子組換え表示制度に関する検討会」について4~議論されている主な改正点と現行制度の整理~

By | 2018年3月6日

 2018年1月31日に第8回目、そして2018年2月16日に第9回目の「遺伝子組換え表示制度に関する検討会」(消費者庁)が開催されました。第9回目では「遺伝子組換え表示制度に関する検討会報告書(素案)」について検討がされています。
 開催前は大きな改正には至らないかと思っていましたが、「遺伝子組換えでない」表示の基準に変更がでましたので、先月に引き続きこちらでとりあげてみます。また、おさらいとして、現行制度の概要についての整理をしてみたいと思います。

主な改正点について


 「遺伝子組換え表示制度に関する検討会報告書(素案)」をもとに、現状の検討状況をあらためてまとめてみると、以下のようになります。

1.表示義務対象範囲
① 表示義務対象品目の検討
 ⇒現行制度(8作物33品目)を維持する
② 表示義務対象原材料の範囲
 ⇒現行制度(主な原材料(重量割合上位3位かつ5%以上)に限定)を維持する

2.表示方法

①「遺伝子組換え不分別」の表示方法
 ⇒「遺伝子組換え不分別」に代わる分かりやすい表示をQ&A 等に示す
②「遺伝子組換えでない」の表示方法
 ⇒現行制度の「5%以下」から「0%(検出限界以下)」に引き下げる(ただし「0%(検出限界以下)」に引き下げた際に「遺伝子組換えでない」表示ができなくなる食品については、分別生産流通管理が適切に行われている旨を任意で表示することを妨げない)

 これらの改正により、現状「遺伝子組換えでない」表示をしている商品の多くは、その表示の代わりに「分別生産流通管理が適切に行われている旨」の表示をすることになるものと思われます。

現行制度について


 表示の変更にあたっては、やはり遺伝子組換え表示の現行制度について知っておく必要がありますので、こちらにあらためて整理したいと思います。まず、表示義務の対象となる品目は、下記2つの別表に掲載されています。

食品表示基準別表第十七(左欄が8作物、右欄が33食品群)

対象農産物 加工食品
大豆(枝豆及び大豆もやしを含む。) ① 豆腐・油揚げ類
② 凍り豆腐,おから及びゆば
③ 納豆
④ 豆乳類
⑤ みそ
⑥ 大豆煮豆
⑦ 大豆缶詰及び大豆瓶詰
⑧ きなこ
⑨ 大豆いり豆
⑩ ①から⑨までに掲げるものを主な原材料とするもの
⑪ 調理用の大豆を主な原材料とするもの
⑫ 大豆粉を主な原材料とするもの
⑬ 大豆たんぱくを主な原材料とするもの
⑭ 枝豆を主な原材料とするもの
⑮ 大豆もやしを主な原材料とするもの
とうもろこし ① コーンスナック菓子
② コーンスターチ
③ ポップコーン
④ 冷凍とうもろこし
⑤ とうもろこし缶詰及びとうもろこし瓶詰
⑥ コーンフラワーを主な原材料とするもの
⑦ コーングリッツを主な原材料とするもの(コーンフレークを除く。)
⑧ 調理用のとうもろこしを主な原材料とするもの
⑨ ①から⑤までに掲げるものを主な原材料とするもの
ばれいしょ ① ポテトスナック菓子
② 乾燥ばれいしょ
③ 冷凍ばれいしょ
④ ばれいしょでん粉
⑤ 調理用のばれいしょを主な原材料とするもの
⑥ ①から④までに掲げるものを主な原材料とするもの
なたね  
綿実  
アルファルファ アルファルファを主な原材料とするもの
てん菜 調理用のてん菜を主な原材料とするもの
パパイヤ パパイヤを主な原材料とするもの

食品表示基準別表第十八

形質 加工食品 対象農産物
高オレイン酸 1 大豆を主な原材料とするもの(脱脂されたことにより、上欄に掲げる形質を有しなくなったものを除く。)
2 1に掲げるものを主な原材料とするもの
大豆
ステアリドン
酸産生
高リシン 1 とうもろこしを主な原材料とするもの(上欄とうもろこしに掲げる形質を有しなくなったものを除く。)
2 1に掲げるものを主な原材料とするもの
とうもろこし

 また、義務表示と任意表示を整理すると、以下のような構造となります。遺伝子組換え農産物が主な原材料(原材料の重量に占める割合の高い原材料の上位3位以内で、かつ、全重量の5%以上を占める)でない場合は、表示義務はありません。「遺伝子組換え表示制度に関する検討会報告書(素案)」での改正点でいえば、下線の2か所が対象になります。

遺伝子組換えの義務表示と任意表示

「従来のものと組成、栄養価等が同等か」

→同等である
 →「遺伝子組換えのものを分別し、原材料とするもの」…義務表示 例:大豆(遺伝子組換え)等
 →「遺伝子組換え不分別」…義務表示 例:大豆(遺伝子組換え不分別)等
 →「遺伝子組換えでないものを分別し、原材料とするもの」「DNA・たんぱく質が検出不可」…任意表示 例:大豆、または大豆(遺伝子組換えでない

→同等ではない

 …義務表示 例:大豆(高オレイン酸遺伝子組換え)等

 このように現行制度では、「遺伝子組換えでない」の表示は、分別生産流通管理が適切に行われていれば、一定(大豆及びとうもろこしについて5%以下)の「意図せざる混入」がある場合でも表示をすることができます。(改正案では、「5%以下」が「0%(検出限界以下)」に引き下げられる見込みです。)

今後の予定


 今回の「遺伝子組換え表示制度に関する検討会報告書(素案)」をもとに、今年度末(2018年3月末)までに最終のとりまとめがされる予定です。想定される改正点をもとに、表示確認の業務フローに変更が必要な点はないか、などの準備を検討する機会にできればと思います。

参照:「遺伝子組換え表示制度に関する検討会報告書(素案)」
http://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/other/pdf/genetically_modified_food_180216_0002.pdf
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川合 裕之

代表取締役社長株式会社ラベルバンク
食品表示検査業をしています。国内と海外向けに、食品表示検査と原材料調査サービスを提供している経験をもとに、食品表示実務に関する講演をしています。

■職歴・経歴
1974年 岡山県生まれ
食品メーカー勤務後、2003年に食品安全研究所(現株式会社ラベルバンク)を設立。
「分かりやすい食品表示」をテーマとし、「食品表示検査・原材料調査」などの品質情報管理サービスを国内から海外まで提供しています。また、定期的に講演活動も行っています。

■主な著作物・寄稿ほか
【共著】
『新訂2版 基礎からわかる食品表示の法律・実務ガイドブック』 (第一法規株式会社, 2023)

【寄稿】
・2024年 第65巻 第4号 『食品衛生学雑誌』(公益社団法人日本食品衛生学会)「海外輸出向け食品における各国基準(添加物、栄養成分表示)の調査と実務上の課題」
・2021年10月『Wellness Monthly Report』(Wellness Daily News)40号
「食品表示関連規則の改正状況 今後の『食品表示』実務上のポイント」
・2020年2月『月刊 HACCP』(株式会社鶏卵肉情報センター)「アレルゲン表示の現状と留意点」
・2017年~2018年連載 『食品と開発』(UBMジャパン)「表示ミスを防ぐための食品表示実務の大切なポイント~」

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【講義】
・2009~2014年 東京農業大学生物産業学部 特別講師

■最近の講演・セミナー実績
・2025年1月28日 加工食品の各国の表示作成実務における留意点について
 一般財団法人食品産業センター様主催。
・2025年1月23日 日本の食品表示制度の改正状況~まとめと今後について
 株式会社ウェルネスニュースグループ様主催。
・2024年4月11日 “低糖質、〇〇不使用、植物由来、機能性等” 健康に関する食品の輸入および輸出時の表示確認の実務について
 アヌーガ・セレクト・ジャパン様主催。
・2023年12月21日 輸出食品における各国基準(添加物および食品表示等)調査と実務上のポイント
 一般財団法人食品産業センター様主催。
・2023年11月9日 食品表示基準と実務上の大切なポイント~保健事項、衛生事項を中心に~
 千代田保健所様主催。

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