2019年2月現在、内閣府消費者委員会食品表示部会において、「食品表示基準の一部改正(遺伝子組換え表示)に係る審議」が開催されています。新たな原料原産地表示への対応など、今後の食品表示計画を検討されている方も多いと思いますので、今回のコラムに取り上げてみたいと思います。
これまでの経緯
2017年4月から2018年3月にかけて「遺伝子組換え表示制度に関する検討会」が消費者庁において開催され、「遺伝子組換え表示制度に関する検討会 報告書」が公表されました。その後2018年10月にパブリックコメントの募集が開始され、同月より内閣府消費者委員会食品表示部会において、「食品表示基準の一部改正(遺伝子組換え表示)に係る審議」が始まりました。そしてパブリックコメントのとりまとめ結果をもとに2018年12月、2019年1月、2月と審議を重ねている状況です。
主な審議内容(公定検査について)
おさらいになりますが、「遺伝子組換え表示制度に関する検討会 報告書」における、現行制度との主な変更点は、以下の2点でした。
- 「遺伝子組換え不分別」の表現に代わる表示案を検討しQ&A等に示す。
- 「遺伝子組換えでない」表示が認められる条件を現行制度の「(大豆及びとうもろこしについて、意図せざる混入率)5%以下」から「不検出」に引き下げる。5%以下の場合、分別生産流通管理が適切に行われている旨の表示を任意で行うことができるようにする。
このため、制度の実効性を確保する観点から、主に「監視、公定検査法」について議論がなされています。とりわけ、「遺伝子組換えでない」や「分別生産流通管理が適切に行われている」と表示された商品に対し、それが事実であるかを原料農産物にまで遡って検証するという内容です。
消費者庁案として提示された 「科学的検証と社会的検証を用いた遺伝子組換え表示の監視の考え方」には、以下のような検証方法が示されています。
【遺伝子組換え表示の監視】
(中略)「遺伝子組換えでない」旨の表示(任意表示)については、その原料の分別生産流通管理がなされている旨の書類、遺伝子組換え農産物が混入していないことの根拠の確認等の社会的検証に加え、科学的検証の手法で原材料の大豆やとうもろこしにおいて遺伝子組換え農産物を含まないことを確認します。
【監視対象となる表示例】
(1)遺伝子組換え農産物が混入しないように分別生産流通管理されたことを確認した対象農産物である旨の表示(対象農産物名のみを記載している場合も含む)
表示例
名 称 納豆
原材料名 大豆(カナダ・分別生産流通管理済み)、△△、〇〇〇、…
名 称 コーングリッツ
原材料名 とうもろこし(米国)(2)遺伝子組換え農産物の混入がない非遺伝子組換え農産物である旨の表示
表示例
名 称 豆腐
原材料名 大豆(国産・遺伝子組換えでない)【市販品買上げ調査等】
(目的)遺伝子組換え農産物が含まれている可能性がある対象商品の絞り込み
(手法)科学的検証:加工食品の定性検査「陽性」である場合の想定される原因
- 遺伝子組換え農産物の使用(混入)
- 製造ラインにおける他商品の遺伝子組換え混入原材料からの混入
- 適切に分別生産流通管理された農産物への遺伝子組換え農産物の意図せざる混入
- その他
【事業者への立入検査等(市販品買上げ調査等の結果が「陽性」の場合)】
(目的)違反事実の確認及び特定
(手法)社会的検証:分別生産流通管理に関する書類、その他関連書類、
製造現場の確認、聞取り調査等
科学的検証:原料農産物の定量検査(注1)・定性検査(注2)、加工食品の定性検査(注1)IP管理された旨の表示及びGM表示がないものが対象 (注2)「遺伝子組換えでない」旨の表示が対象
そして、「検査の精度」と、こうした検証に対する労力が課題とされており、この議論を重ねているところです。
表示方法と今後について
その他、表示方法に関する議論もされていますが、「遺伝子組換え表示制度に関する検討会 報告書」と関連性があると考えられている意見(「遺伝子組換え表示制度改正案にかかる委員意見」において報告書の論点番号が付記されているもの)を抜粋すると以下のようになります。
【表示内容、表現方法】
- 「不分別」といった表現や、不検出から5%の間を示す表現については分かりやすくすべき。
- 主観的な表現の使用は避け、極力Q&Aなどで例示すべき。
- 「不検出」という表現に消費者は過度な期待を抱きがちになり、留意が必要。
- 簡素な手段を用いて、充実した表示がなされる方向で検討されるべき。
- 「遺伝子組換えでない」と表示していないことの意味が2種類あり、その点は消費者の誤認が払拭できないのではないか。
- IPハンドリング実施の事実を、マークなどを用いて表示してはどうか。また、「IPハンドリング」という用語自体も積極的に普及を図ってはどうか。
このほか、先の検討会において議論された内容が再度議論されているのは、パブリックコメントの結果によるものと思われます。パブリックコメントは773件の意見が集まりましたが、そのとりまとめ結果の資料(「遺伝子組換え表示制度に係る食品表示基準の一部を改正する内閣府令(案)に関する意見募集の結果について(概要)」)を見ると、現行の遺伝子組換え表示制度や、「遺伝子組換え表示制度に関する検討会 報告書」における改正案に対し、理解が十分でないことが分かります。
この後、最終的な答申案について審議がされる予定です。食品表示の実務に関して言えば、こうした審議の経過までは知らなくても業務上の問題はないものの、やはり制度の成り立ちの背景を知っておくことは、分かりやすい表示を考えるうえで役に立つと思いますので、一度目を通しておかれることをおすすめしたいと思います。
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川合 裕之
■職歴・経歴
1974年 岡山県生まれ
食品メーカー勤務後、2003年に食品安全研究所(現株式会社ラベルバンク)を設立。
「分かりやすい食品表示」をテーマとし、「食品表示検査・原材料調査」などの品質情報管理サービスを国内から海外まで提供しています。また、定期的に講演活動も行っています。
■主な著作物・寄稿ほか
【共著】
『新訂2版 基礎からわかる食品表示の法律・実務ガイドブック』 (第一法規株式会社, 2023)
【寄稿】
・2024年 第65巻 第4号 『食品衛生学雑誌』(公益社団法人日本食品衛生学会)「海外輸出向け食品における各国基準(添加物、栄養成分表示)の調査と実務上の課題」
・2021年10月『Wellness Monthly Report』(Wellness Daily News)40号
「食品表示関連規則の改正状況 今後の『食品表示』実務上のポイント」
・2020年2月『月刊 HACCP』(株式会社鶏卵肉情報センター)「アレルゲン表示の現状と留意点」
・2017年~2018年連載 『食品と開発』(UBMジャパン)「表示ミスを防ぐための食品表示実務の大切なポイント~」
>> 寄稿の詳細はこちら
【講義】
・2009~2014年 東京農業大学生物産業学部 特別講師
■最近の講演・セミナー実績
・2024年4月11日 “低糖質、〇〇不使用、植物由来、機能性等” 健康に関する食品の輸入および輸出時の表示確認の実務について
アヌーガ・セレクト・ジャパン様主催。
・2023年12月21日 輸出食品における各国基準(添加物および食品表示等)調査と実務上のポイント
一般財団法人食品産業センター様主催。
・2023年11月9日 食品表示基準と実務上の大切なポイント~保健事項、衛生事項を中心に~
千代田保健所様主催。
・2023年11月8日 添加物の不使用表示について
株式会社インフォマート様主催。
・2023年10月12日~13日 海外輸出向け食品の表示(添加物、栄養成分等)について
公益社団法人日本食品衛生学会様主催。
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