2019年3月29日、「冠表示における原料原産地情報の提供に関するガイドライン」が、消費者庁により公表されました。いわゆる「冠表示」となる原材料の原料原産地情報について、重量順位にかかわらず、自主的に情報提供するための指針とされています。日本においては、「〇〇産原料使用」などの特定の原材料の産地や製造地を強調する表示について、消費者からの関心が高い背景がありますので、今月はこちらの話題を取り上げてみたいと思います。
冠表示の定義
「冠表示における原料原産地情報の提供に関するガイドライン」において、自主的に原料原産地表示を提供する「冠表示」を以下のように定義されています。
- 「商品名に特定の原材料名を冠している表示」
- 「商品名に近接した箇所に特定の原材料の使用を特に強調している表示」
「商品名に特定の原材料名を冠している表示」の例として、“かにチャーハン”、“牛肉カレー”、“たっぷりたまねぎシチュー”、“えびグラタン”等が挙げられています。
また「商品名に近接した箇所に特定の原材料の使用を特に強調している表示」の例として、“抹茶を贅沢に使った”、“ごまをふんだんに練り込んだ”、“こだわりの牛肉を使用した”、“たっぷり粒コーン入り”等が挙げられています。
これらの「冠表示」となる原材料については、重量割合が上位1位でない場合であっても、自主的に原産地表示(または製造地表示)をすることが求められることになります。
対象とならない商品について
上記の「冠表示」に当たらない例については、「情報提供が望まれる可能性が低いもの」として、以下の例が挙げられています。
- 特定の原材料名を冠した商品名に当たらない(原材料が特定されていない)
(例:肉ぎょうざ、五目ピラフ、野菜カレー、フルーツゼリー、シーフードドリア等)- 特定の原材料の使用を特に強調していない
(例:はちみつ使用、みかん入り、生クリーム配合、粒コーン(北海道産30%)入り等)
また、ガイドラインの対象とならない商品については、以下のように整理されています。
- 食品表示基準、米穀等の取引等に係る情報の記録及び産地情報の伝達に関する法律、酒税の保全及び酒類業組合等に関する法律、その他の法令により原産地等の表示が義務付けられている商品。
- ○○味、○○風味等といった表現で、その商品の味付けや風味等のバリエーションを表しており、特定の原材料の使用を特に強調していない商品。(例:しょうゆ味、りんご味、しそ風味等)
- 特定の原材料名を含む商品名が一般名称とされている(特定の原材料名が商品名に付されていることが一般化されている)商品。(例:さば水煮、トマトケチャップ、コーンスープ、麦茶、いちごジャム、カレーパン等)
- 商品の形状等からイメージされる食材の名称を商品名の一部としている商品。(例:メロンパン、かにかま、たい焼き、柿の種等)
情報提供の方法
ガイドラインの対象である「冠表示」に該当する場合は、以下の方法により情報提供をすることが求められます。
- 「冠表示」の原材料名が生鮮食品の場合は産地を、加工食品の場合は製造地を情報提供する。
(原材料名欄に加工食品の名称で表示してあったとしても、「冠表示」の原材料名を生鮮食品名で表示している場合は、その生鮮食品まで遡って原産地を情報提供する) - 「商品の容器包装の一括表示部分に表示(食品表示基準に基づく原料原産地名の表示方法による)」、または「商品の容器包装の一括表示部分以外の場所への表示」、または「ウェブサイトや電話対応等」により行う。
- 「商品の容器包装の一括表示部分以外の場所」に行う場合、食品表示基準に掲げる表示方法(例:「農産物の場合」国産品にあっては、国産である旨に代えて都道府県名その他一般に知られている地名を、輸入品にあっては、原産国名に加え州名、省名その他一般に知られている地名等)に準じて情報提供することができる。
- 「商品の容器包装の一括表示部分以外の場所」、または「ウェブサイト」に行う場合で、複数の原産国の原材料を使用している場合は、国別表示を基本とし、国別表示が重量順でない場合は、消費者に誤認を与えないよう、重量順でない旨を表示する。
注意が必要な点
ガイドラインでは、「複数の原産地の原材料を使用している場合で、一括表示部分以外の場所に表示する際の表示例」を、参考情報として整理しています。(例:「原材料○○の原産地は、(日本、アメリカ、タイ、中国)です。なお、当該原産地は、2018年○月時点で使用予定がある産地を順不同で表示しています。」等)
冠表示にあたる場合は、このような積極的な情報提供が求められると思いますが、強調表示の一種であることに留意することが必要です。つまり、誤認を与えないようにすることと、合理的な根拠を保管しておくことが大切であるといえます。とりわけ、複数の原産地の原材料を使用している場合は、この点に注意される必要がありますので、ガイドラインをよく確認のうえ、情報提供されるとよいと思います。
メールマガジン配信登録
こちらのブログに毎月投稿している食品表示に関するニュースやセミナー情報を、ご登録されたメールアドレス宛に送付させていただきます。
関連サービス
【国産食品(国内流通)】食品表示調査:配合表、製品規格書等をもとに、原材料名や栄養成分等の食品表示案との適合性を検証します。各方面からの原材料詳細や表示内容の確認などの対応業務をサポートします。新商品や改版の確認業務、膨大な規格書情報の確認業務にご利用いただいております。
関連記事一覧
川合 裕之
■職歴・経歴
1974年 岡山県生まれ
食品メーカー勤務後、2003年に食品安全研究所(現株式会社ラベルバンク)を設立。
「分かりやすい食品表示」をテーマとし、「食品表示検査・原材料調査」などの品質情報管理サービスを国内から海外まで提供しています。また、定期的に講演活動も行っています。
■主な著作物・寄稿ほか
【共著】
『新訂2版 基礎からわかる食品表示の法律・実務ガイドブック』 (第一法規株式会社, 2023)
【寄稿】
・2024年 第65巻 第4号 『食品衛生学雑誌』(公益社団法人日本食品衛生学会)「海外輸出向け食品における各国基準(添加物、栄養成分表示)の調査と実務上の課題」
・2021年10月『Wellness Monthly Report』(Wellness Daily News)40号
「食品表示関連規則の改正状況 今後の『食品表示』実務上のポイント」
・2020年2月『月刊 HACCP』(株式会社鶏卵肉情報センター)「アレルゲン表示の現状と留意点」
・2017年~2018年連載 『食品と開発』(UBMジャパン)「表示ミスを防ぐための食品表示実務の大切なポイント~」
>> 寄稿の詳細はこちら
【講義】
・2009~2014年 東京農業大学生物産業学部 特別講師
■最近の講演・セミナー実績
・2025年1月28日 加工食品の各国の表示作成実務における留意点について
一般財団法人食品産業センター様主催。
・2025年1月23日 日本の食品表示制度の改正状況~まとめと今後について
株式会社ウェルネスニュースグループ様主催。
・2024年4月11日 “低糖質、〇〇不使用、植物由来、機能性等” 健康に関する食品の輸入および輸出時の表示確認の実務について
アヌーガ・セレクト・ジャパン様主催。
・2023年12月21日 輸出食品における各国基準(添加物および食品表示等)調査と実務上のポイント
一般財団法人食品産業センター様主催。
・2023年11月9日 食品表示基準と実務上の大切なポイント~保健事項、衛生事項を中心に~
千代田保健所様主催。
>> 講演・セミナーの詳細はこちら
最新記事 by 川合 裕之 (全て見る)
- 食品表示に関する制度改正状況のまとめ(1) - 2024年12月6日
- 米国カリフォルニア州の食品の期限表示に関する標準化法案と期限表示をとりまく食品廃棄問題の現状について - 2024年10月31日
- 各国のアレルゲン表示に関する基準の改正動向について - 2024年10月4日