2020年6月24日に消費者庁および公正取引委員会により告示された「特定保健用食品の表示に関する公正競争規約及び同施行規則」が、8月21日に施行されました。表示の許可について国の審査を受ける特定保健用食品に公正競争規約が必要となったこと、制度の導入(1991年)から長い期間を経ていることなどから、規約の主な内容とあわせて施行に至った背景についても整理してみたいと思います。
背景
2014年12月の機能性表示食品制度検討に際し、「機能性表示食品に係る食品表示基準についての答申書」として、「特保制度との関係・整序などの根本的な問題や、いわゆる健康食品や特保を含め表示だけでなく広く広告を含めたあるべきルールの問題について、さらに消費者委員会として、引き続き検討を加える所存である」と報告されています。その後、2015年6月に消費者委員会において、以下のような論点整理がされたという経緯があります。
- 特保が「健康に役立つ」として国民に広く利用されるようになった一方、
- 消費者が健康の維持・増進、食生活の改善を目的とした制度であることを正しく理解して製品を利用しているか(効果に対し過大な期待をしていないか)、
- 効果に見合わない宣伝・広告が行われているのではないかといった疑義が示されるようになった。
また、消費者委員会で特保の表示許可を審議する委員からも、特保に関して、表示・広告に関する問題だけでなく、制度や運用についても問題提起がされるようになっている。
平成 27 年4月には機能性表示食品の制度が始まり、企業の自己認証で健康強調表示を行うことができるようになった。同制度による製品は特保とともに、「いわゆる健康食品」と呼ばれる製品群に含まれる、健康への効果や安全性が明らかでない食品の淘汰に寄与することが期待されている。しかし、その効果が十分に発揮されるためには、国民が各制度を正しく理解し、適切な製品選択を行うことができる環境を早急に整えることが求められる。
この論点について、2015年8月より「特定保健用食品等の在り方に関する専門調査会(内閣府消費者委員会)」において議論がなされ、以下のような報告がされたことが、今回の公正競争規約の背景となったものと思われます。
一方、現在の広告をみると、「特保の摂取で食生活の乱れを相殺できる」と受け取れるような、健康にとってのマイナスを特保摂取だけでゼロに戻せるといった暗示的な広告を行う製品もある。このような現状は、製品の広告制作に携わる人々や、製品の流通・販売に係わる人々も、あまり制度の本来の趣旨を理解していないために起きているのではないか。特保制度の目的である、健康増進・食生活改善という点を、もう一度認識しなおす必要がある。
特保に関する自主基準としては、公益財団法人 日本健康・栄養食品協会の『「特定保健用食品」適正広告自主基準』があり、特保の広告の適正化に向けた取組を行っている。(中略)現時点においては、自主基準を全ての加盟企業が遵守するまでには、至っていない。その状況を改善するために、事後チェックで指摘を受けた事業者に対し是正状況のフォローアップを実施することや、「公正競争規約」を設けるといった工夫が、特保を製造する業者間で行われることを期待する。
主な規則
特定保健用食品の表示に関する公正競争規約には、菓子や飲料など様々な食品分類に横断的に関わるといった特徴があります。こうした規約としては以前より「観光土産品の表示に関する公正競争規約」があるのですが、こちらは他の規約の適用を受けるものを除くことになっており、特定保健用食品についてはこうした除外規程はありません。
また容器包装の表示については、食品表示基準に従った規則が改めて整理されていますので、実務面において注意する必要があるのは、主に「容器包装以外の表示」(広告等の表示)と思われます。
<容器包装以外の表示>公正競争規約第9条~11条、同施行規則第20条~25条より一部抜粋
必要表示事項 |
(1) 特定保健用食品である旨 (2) 許可等を受けた表示の内容 (3) バランスのとれた食生活の普及啓発を図る文言 |
---|---|
推奨表示事項 |
(1) 一日当たりの摂取目安量に関する表示 (2) 摂取の方法に関する表示 |
任意表示事項 |
(1) 許可等表示に関する表示 |
上記は抜粋ですので、詳細は施行規則を参照してください。例えば任意表示事項の「(1) 許可等表示に関する表示」は、「許可等表示について、キャッチコピー等での言い換え、簡略化、一部省略した表示、又は追加の説明を表示することができる。ただし、表示する場合は、過大な効果を期待させ、又はその過大な効果についても国が許可等しているかのように誤認させることがないよう表示すること。」とされています。
今後について
特定保健用食品の表示に関する公正競争規約および施行規則は2020年8月21日に施行されましたが、「容器包装以外の表示」(公正競争規約第9条~第14条および施行規則第20条~第26条)については、2020年6月24日の告示日から6ヶ月を経過した日が施行日となります。
容器包装以外といった広告表示に関する規則について詳細に規定されていることから、特定保健用食品だけでなく一般的な健康食品を取り扱う方にとっても、こちらの規約についての詳細を確認されておくとよいと思います。
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川合 裕之
■職歴・経歴
1974年 岡山県生まれ
食品メーカー勤務後、2003年に食品安全研究所(現株式会社ラベルバンク)を設立。
「分かりやすい食品表示」をテーマとし、「食品表示検査・原材料調査」などの品質情報管理サービスを国内から海外まで提供しています。また、定期的に講演活動も行っています。
■主な著作物・寄稿ほか
【共著】
『新訂2版 基礎からわかる食品表示の法律・実務ガイドブック』 (第一法規株式会社, 2023)
【寄稿】
・2024年 第65巻 第4号 『食品衛生学雑誌』(公益社団法人日本食品衛生学会)「海外輸出向け食品における各国基準(添加物、栄養成分表示)の調査と実務上の課題」
・2021年10月『Wellness Monthly Report』(Wellness Daily News)40号
「食品表示関連規則の改正状況 今後の『食品表示』実務上のポイント」
・2020年2月『月刊 HACCP』(株式会社鶏卵肉情報センター)「アレルゲン表示の現状と留意点」
・2017年~2018年連載 『食品と開発』(UBMジャパン)「表示ミスを防ぐための食品表示実務の大切なポイント~」
>> 寄稿の詳細はこちら
【講義】
・2009~2014年 東京農業大学生物産業学部 特別講師
■最近の講演・セミナー実績
・2024年4月11日 “低糖質、〇〇不使用、植物由来、機能性等” 健康に関する食品の輸入および輸出時の表示確認の実務について
アヌーガ・セレクト・ジャパン様主催。
・2023年12月21日 輸出食品における各国基準(添加物および食品表示等)調査と実務上のポイント
一般財団法人食品産業センター様主催。
・2023年11月9日 食品表示基準と実務上の大切なポイント~保健事項、衛生事項を中心に~
千代田保健所様主催。
・2023年11月8日 添加物の不使用表示について
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公益社団法人日本食品衛生学会様主催。
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