今月は、特定保健用食品制度の見直しに関するニュースを取り上げたいと思います。昨年末の2020年12月25日に第1回目の、今年1月22日に第2回目の「特定保健用食品制度(疾病リスク低減表示)に関する検討会」(以下「検討会」)が、消費者庁において開催されました。
検討会の背景
特定保健用食品の疾病リスク低減表示は、平成17年(2005年)よりカルシウム及び葉酸の基準を設定し、運用されています。一方で、その運用については、制度開始以降、これまで特段の見直しは行われておりません。
このため、消費者庁において検討会を開催し、疾病リスク低減表示の今後の運用について諸外国の状況も踏まえつつ、専門家から幅広く意見を伺い、検討を行うこととされました。
特定保健用食品(疾病リスク低減表示)とは
まずは特定保健用食品の分類についてですが、以下のとおりに整理されています。
「特定保健用食品」: 食生活において特定の保健の目的で摂取をする者に対し、その摂取により当該保健の目的が期待できる旨の表示をする食品 |
|
「特定保健用食品(疾病リスク低減表示)」: 関与成分の疾病リスク低減効果が医学的・栄養学的に確立されている場合、疾病リスク低減表示を認める特定保健用食品 (現在は関与成分としてカルシウム及び葉酸がある) |
|
「特定保健用食品(規格基準型)」: 特定保健用食品としての許可実績が十分であるなど科学的根拠が蓄積されている関与成分について規格基準を定め、消費者委員会の個別審査なく、消費者庁において規格基準への適合性を審査し許可する特定保健用食品 |
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「特定保健用食品(再許可等)」: 既に許可を受けている食品について、商品名や風味等の軽微な変更等をした特定保健用食品 |
|
「条件付き特定保健用食品」: 特定保健用食品の審査で要求している有効性の科学的根拠のレベルには届かないものの、一定の有効性が確認される食品を、限定的な科学的根拠である旨の表示をすることを条件として許可する特定保健用食品 |
今回の検討会での審議の対象は、上から2番目の「特定保健用食品(疾病リスク低減表示)」です。「疾病リスク低減表示」の表示基準は、以下のとおりです。
関与成分 | 特定の保健の用途に 係る表示 |
摂取する上での 注意事項 |
一日摂取目安量の下限値 | 一日摂取目安量の上限値 |
---|---|---|---|---|
カルシウム (食品添加物公定書等に定められたもの又は食品等として人が摂取してきた経験が十分に存在するものに由来するもの) |
この食品はカルシウムを豊富に含みます。日頃の運動と適切な量のカルシウムを含む健康的な食事は、若い女性が健全な骨の健康を維持し、歳をとってからの骨粗鬆症になるリスクを低減するかもしれません。 | 一般に疾病は様々な要因に起因するものであり、カルシウムを過剰に摂取しても骨粗鬆症になるリスクがなくなるわけではありません。 | 300mg | 700mg |
葉酸 (プテロイルモノグルタミン酸) |
この食品は葉酸を豊富に含みます。適切な量の葉酸を含む健康的な食事は、女性にとって、二分脊椎などの神経管閉鎖障害を持つ子どもが生まれるリスクを低減するかもしれません。 | 一般に疾病は様々な要因に起因するものであり、葉酸を過剰に摂取しても神経管閉鎖障害を持つ子どもが生まれるリスクがなくなるわけではありません。 | 400µg | 1,000µg |
「疾病リスク低減表示」の許可件数は、30件です(失効済みの品目を除く)。内訳はカルシウムが30件、葉酸は0件です。なお検討会の資料によると、特定保健用食品全体の許可件数1,075件、機能性表示食品の届出公表件数は3,168件とされています。
主な論点
検討会の主な論点(案)は、以下のとおりです。
- 米国、カナダ、EUで認められている疾病リスク低減表示を踏まえた検討
- 許可文言の柔軟性
- 表示の内容等の基準が定められていない 疾病リスク低減表示の申請
- その他(先行申請者の権利保護)
現状の「疾病リスク低減表示」において許可されている関与成分は、先述のカルシウム(骨粗鬆症のリスク低減可能性)と葉酸(神経管閉鎖障害のリスク低減可能性)の2つのみです。検討会では、諸外国で認められている疾病リスク低減表示を参考に、対象の拡充や許可文言の柔軟性について審議がなされる見込みです。
<米国・カナダ・EUで認められている疾病リスク低減表示の例>
表現の内容 | 表示が認められている国・地域 (△は類似の表示が認められている場合) |
||
---|---|---|---|
米国 | カナダ | EU | |
1.摂取量を減らすことによる表示 | |||
ナトリウムと高血圧 | 〇 | 〇 | |
飽和脂肪、コレステロールと冠状動脈性心疾患 | 〇 | 〇 | △ |
食事性脂肪とがん | 〇 | ||
2.現行のトクホ(疾病リスク低減表示)制度に沿った表示 | |||
カルシウム、ビタミンDと骨粗しょう症 | 〇 | 〇 | |
ビタミンDと転倒 | 〇 | ||
3-1.既許可のトクホに類似の表示(疾病リスクを低減する旨の直接的な表示) | |||
非う蝕性糖質甘味料と虫歯 | 〇 | 〇 | 〇 |
フッ素添加水と虫歯 | 〇 | ||
3-2.既許可のトクホに類似の表示(疾病の代替指標の取扱い) | |||
特定の食品由来の水溶性食物繊維と冠状動脈性心疾患 | 〇 | 〇 | |
大豆たんぱく質と冠状動脈性心疾患 | 〇 | ||
植物ステロールエステル、スタノールエステルと冠状動脈性心疾患 | 〇 | 〇 | |
4.対象成分が限定されていない表示 | |||
食物繊維を含む穀物製品、果物、野菜とがん | 〇 | ||
果物、野菜とがん | 〇 | 〇 | |
果物、野菜と冠状動脈性心疾患 | 〇 | 〇 |
今後の予定
第3回目の検討会は3月に行われる予定で、そこで今後の運用の方向性の取りまとめがなされる見込みです。その際に、例えば「新たな関与成分について基準を設定する」等の対応が必要と判断された場合は、4月以降に具体的な検討が行われる予定です。とりわけ健康に関する表示をされている食品を取り扱いの方は、議事資料に一度目を通しておかれるとよいと思います。
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川合 裕之
■職歴・経歴
1974年 岡山県生まれ
食品メーカー勤務後、2003年に食品安全研究所(現株式会社ラベルバンク)を設立。
「分かりやすい食品表示」をテーマとし、「食品表示検査・原材料調査」などの品質情報管理サービスを国内から海外まで提供しています。また、定期的に講演活動も行っています。
■主な著作物・寄稿ほか
【共著】
『新訂2版 基礎からわかる食品表示の法律・実務ガイドブック』 (第一法規株式会社, 2023)
【寄稿】
・2024年 第65巻 第4号 『食品衛生学雑誌』(公益社団法人日本食品衛生学会)「海外輸出向け食品における各国基準(添加物、栄養成分表示)の調査と実務上の課題」
・2021年10月『Wellness Monthly Report』(Wellness Daily News)40号
「食品表示関連規則の改正状況 今後の『食品表示』実務上のポイント」
・2020年2月『月刊 HACCP』(株式会社鶏卵肉情報センター)「アレルゲン表示の現状と留意点」
・2017年~2018年連載 『食品と開発』(UBMジャパン)「表示ミスを防ぐための食品表示実務の大切なポイント~」
>> 寄稿の詳細はこちら
【講義】
・2009~2014年 東京農業大学生物産業学部 特別講師
■最近の講演・セミナー実績
・2025年1月28日 加工食品の各国の表示作成実務における留意点について
一般財団法人食品産業センター様主催。
・2025年1月23日 日本の食品表示制度の改正状況~まとめと今後について
株式会社ウェルネスニュースグループ様主催。
・2024年4月11日 “低糖質、〇〇不使用、植物由来、機能性等” 健康に関する食品の輸入および輸出時の表示確認の実務について
アヌーガ・セレクト・ジャパン様主催。
・2023年12月21日 輸出食品における各国基準(添加物および食品表示等)調査と実務上のポイント
一般財団法人食品産業センター様主催。
・2023年11月9日 食品表示基準と実務上の大切なポイント~保健事項、衛生事項を中心に~
千代田保健所様主催。
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