今回のコラムでは、日本から海外に向けて食品を輸出しようとするときに確認が必要となる、各国の「食品表示基準」の違いへの対処について、実務上のポイントを整理してみたいと思います。(本稿はNPO法人食の安全と安心を科学する会様での2021年5月24日講演内容を一部まとめたものです)
何から確認すればよいか迷うときは
海外への輸出業務が初めてであり、かつ日本への輸入業務の経験がない場合、何から確認すればよいか分からないこともあるかと思います。そうした場合は、食品表示確認の周辺業務を整理したうえで考えるとよいと思います。
- 許認可の確認(管轄省庁への届出、許可申請等)
- 食品規格の確認(微生物、重金属、化学物質、カビ毒、残留農薬等)
- 使用基準の確認(添加物物質名・用途等)
- 表示基準の確認(表示方法、表示事項、表示禁止事項、および強調表示基準等)
- 広告規制の確認(広告で用いる強調表示の科学的根拠等)
このように整理すると、食品表示(表示基準)確認の前に「使用基準」を確認する手順があることが分かります。またその前には「食品(および添加物の)規格」を確認する手順もあり、これらを分けて考える(そして時には連動して考える)必要がある点が、輸出と輸入のいずれの業務においても大事なポイントになるといえます。
各国基準の事前調査について
各国の「食品規格」「使用基準」「表示基準」を調べようとする場合、まずは分かりやすい情報サイトを探すことをお勧めします。日本であれば、農林水産省の「各国の食品・添加物等の規格基準」が役に立つでしょう。「食品添加物」「食品表示」「健康強調・機能性食品」「栄養成分表示」「個別食品規格」等のテーマ別に、約30ヶ国の基準の概要が日本語で整理されています。特に「法的枠組」より全体像(どのような規則があるのか)を確認できる点が便利です。
最終的には対象国管轄省庁の文書(現地語)を直接確認するのですが、この段階で、実務上で必要な情報がどこにあるのかが分からなくなるときがあります。そうした場合はまず「英文で書かれたガイドライン」を探し、その中に記載されている「元となる規則の名称」(出典、参考法令名の一覧)より、関連する基準名(添加物使用基準、食品表示基準等)を特定するとよいと思います。
原材料調査について
輸出と輸入のいずれの業務においても、もっとも多くの時間や労力を費やすことになるのが「原材料調査」(特に添加物の使用基準の確認)といえます。ただし対象国の現地語で書かれた添加物使用基準や添加物公定書にあたる文書を調べること自体は、それほど難しいわけではありません。多くの場合は物質名がリスト化され、閾値とともに表形式になっているためです。
添加物の使用基準を満たさないと分かった場合、同じような機能をもつ代替の添加物を探す必要があるのですが、やはり製造性での課題や、栄養成分訴求等の品質保証の課題について検証が必要になりますので、その分の時間もかかることになります。また添加物以外の原材料(食品素材)については、添加物と異なり、使用基準などが記載された文書自体をみつけることが困難ですので、対象国管轄省庁への問い合わせも含め、多くの時間がかかる可能性があります。
食品表示チェックについて
対象国が5ヶ国、10ヶ国など複数になる場合は、各国の表示基準をすべて把握するのは難しいといえます。そうした際に1つの物差しとして、「日本の食品表示基準の視点」で調べることをお勧めしています。
・表示事項(何を表示するか) ・表示方法(どのように表示するか) ・表示禁止事項(何を表示してはならないか) |
× | ・横断的(すべての食品)か ・個別的(食品または特定の条件による)か |
何の事項をどのように表示すればよいかといった表示基準は、規則が分かってしまえば対応は難しくありません。ただし添加物等のリストと異なり、現地語で記載された文書から該当する規則を探すことは簡単ではないと思います。とりわけ、特定の条件下で表示の必要性が生じる規則には注意が必要ですので、商品特徴の訴求など強調表示が多い場合には、やはり対応は難しくなるといえます。
例えば表示基準のうち「アレルゲンにはハイライトをつける」「添加物には物質名とEナンバーを表示する」といった規則への対応自体は難しいものではないと思いますが、「内容量は表面の底辺から30%以内の高さに記載」「容器包装の主要面に特定の原材料名が含まれる場合は、その量について、容器包装の同じ面に表示」などの”表示位置の指定”や”強調表示”に関する規則は、対応に時間がかかる場合が多いといえます。
なお「日本の食品表示基準の視点」で調べるとお伝えしましたが、あくまでも対象国の文書から該当する規則を調べるときの視点(表示事項、表示方法、表示禁止事項と、横断的か個別的か)にとどめるよう注意が必要です。とりわけ日本の「表示方法」(特に原材料表示順、重量計算、添加物表示名、アレルゲンの対象、栄養成分の対象、数値の丸め方等)については思い込みをしてしまいがちであり、かえって支障になる場合もある点に注意が必要です。
大切なポイント
とはいえ実際の各国の基準を調べながら原材料や表示の確認をするには、やはり多くの課題があると思います。そこで輸出業務の際には、そうした課題に常に注意できるよう、以下の3点を考えておくとよいと思います。
- 用語や要件の定義の確認に時間をかける
- 日本の基準を説明できるようにする
- 表示と連動する他の基準(使用基準等)について考える
ポイントとしては、特に「(食品および添加物の)規格」と「使用基準」、「使用基準」と「表示基準」について分けて考えることが大切だと思います。例えばある食品に含まれる添加物について確認しようとする場合、使用基準(割合、用途等)だけを確認するのではなく、その添加物の規格(成分、製法等)も確認することが求められる場合があります。ただしその食品の原材料配合表には該当の添加物の規格までは記載されないため、その食品に使用されている添加物(使用されている添加物製剤)の規格書をもって確認することが必要になります。(原材料配合表の確認段階では、「添加物」だけでなく遺伝子組換え原料や医薬品成分などの確認もできるよう、「使用基準」確認工程として広義に定義しておいたほうがよいと思います)
また原料メーカーより入手した規格書に、キャリーオーバーや加工助剤にあたる添加物が、最終製品の食品の配合表に記載されないといったケースも起こり得ます。日本の表示基準上では確かに表示を免除できるものですが、使用基準においては使用できるかどうかの確認が求められます。こうした添加物の記載のない規格書や配合表である場合、書類を受け取った担当者がその添加物の存在に気付くことはかなり難しいといえますので、規格書を請求する際には「輸出時の原材料使用基準の確認のため」と目的を明確に伝えるとよいでしょう。
最後に、対象国の現地担当者とのチェック業務においては、キャリーオーバーなどの用語や表示免除などの要件についても、その定義は同じであるかを改めて確認することも重要なポイントです。例えば「炭水化物」も、日本とEUとでは算出方法が異なります。そのためには、日本の基準を説明できることが必要になります。そして調査の結果、原材料や表示などを変更する場合は、その他の基準に連動して影響を与えるものではないか、あわせて考えることが大切だと思います。
<追伸>
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川合 裕之
■職歴・経歴
1974年 岡山県生まれ
食品メーカー勤務後、2003年に食品安全研究所(現株式会社ラベルバンク)を設立。
「分かりやすい食品表示」をテーマとし、「食品表示検査・原材料調査」などの品質情報管理サービスを国内から海外まで提供しています。また、定期的に講演活動も行っています。
■主な著作物・寄稿ほか
【共著】
『新訂2版 基礎からわかる食品表示の法律・実務ガイドブック』 (第一法規株式会社, 2023)
【寄稿】
・2024年 第65巻 第4号 『食品衛生学雑誌』(公益社団法人日本食品衛生学会)「海外輸出向け食品における各国基準(添加物、栄養成分表示)の調査と実務上の課題」
・2021年10月『Wellness Monthly Report』(Wellness Daily News)40号
「食品表示関連規則の改正状況 今後の『食品表示』実務上のポイント」
・2020年2月『月刊 HACCP』(株式会社鶏卵肉情報センター)「アレルゲン表示の現状と留意点」
・2017年~2018年連載 『食品と開発』(UBMジャパン)「表示ミスを防ぐための食品表示実務の大切なポイント~」
>> 寄稿の詳細はこちら
【講義】
・2009~2014年 東京農業大学生物産業学部 特別講師
■最近の講演・セミナー実績
・2024年4月11日 “低糖質、〇〇不使用、植物由来、機能性等” 健康に関する食品の輸入および輸出時の表示確認の実務について
アヌーガ・セレクト・ジャパン様主催。
・2023年12月21日 輸出食品における各国基準(添加物および食品表示等)調査と実務上のポイント
一般財団法人食品産業センター様主催。
・2023年11月9日 食品表示基準と実務上の大切なポイント~保健事項、衛生事項を中心に~
千代田保健所様主催。
・2023年11月8日 添加物の不使用表示について
株式会社インフォマート様主催。
・2023年10月12日~13日 海外輸出向け食品の表示(添加物、栄養成分等)について
公益社団法人日本食品衛生学会様主催。
>> 講演・セミナーの詳細はこちら
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