遺伝子組換え農産物の意図せざる混入の検査法について~「食品表示基準について」が一部改正(主に「遺伝子組換えでない」表示について)されました~

By | 2021年10月5日


 2021年9月15日、「食品表示基準について」の第24次改正が行われ、遺伝子組換え農産物の意図せざる混入の検査法新設と検査機器の追加等が公表されました。

<ポイント>

  • 通知「食品表示基準について」の「別添 安全性審査済みの遺伝子組換え食品の検査方法」において、
  • 分別生産流通管理を実施した非遺伝子組換えダイズ穀粒及びトウモロコシ穀粒について、
  • 意図せざる混入を確認するための検査法の新設と、現行の検査法で使用できる検査機器の追加等がされた

改正の背景


 2018年3月28日、消費者庁より公表された「遺伝子組換え表示制度に関する検討会報告書」の「(2)表示方法 ② 「遺伝子組換えでない」の表示方法」において、以下のような整理がなされたことが改正の背景となっています。

 「意図せざる混入」の許容率については、できるだけ引き下げてほしいという消費者の要望があるが、事業者による原材料の安定的な調達が困難となる可能性、許容率引下げに伴う検査に係る作業量やコストの増大などの事情を総合的に勘案すると、大豆及びとうもろこしについて5%以下の意図せざる混入を認めている現行制度を維持することが適当と考えられる。
 「遺伝子組換えでない」表示が認められる条件については、大豆及びとうもろこしに対して遺伝子組換え農産物が最大5%混入しているにもかかわらず、「遺伝子組換えでない」表示を可能としていることは誤認を招くとの意見を踏まえ、誤認防止、表示の正確性担保及び消費者の選択幅の拡大の観点から、「遺伝子組換えでない」表示が認められる条件を現行制度の「5%以下」から「不検出」に引き下げることが適当と考えられる。なお、引下げに当たっては、新たな表示制度が現在の食品の製造・流通・消費に与える影響に配慮し、これらの現場で混乱が生じないよう、新たに公定検査法を確立し、円滑な検証や監視を担保するとともに、事業者や消費者に十分な周知を行うことが必要である。新たな公定検査法の確立に当たっては、遺伝子組換え農産物の混入率を判定する現行の定量検査法のように、正確性と実行可能性のバランスにも配慮すべきである。

主な改正点


 追加された検査方法は以下のとおりです。検査方法の他に通知文の修正も多くありますので、詳細は第24次改正の「(別紙)新旧対照表」を参照すると分かりやすいと思います。

2.2. ダイズ穀粒の検査法(遺伝子組換え農産物混入の判定に係る検査法)
 2.2.1. リアルタイム PCR を用いた定性 PCR 法
  2.2.1.1. ABI PRISM® 7900HT 96 well を用いた定性 PCR
  2.2.1.2. Applied Biosystems® 7500 を用いた定性 PCR
  2.2.1.3. QuantStudio 5 を用いた定性 PCR
  2.2.1.4. QuantStudio 12K Flex を用いた定性 PCR
  2.2.1.5. LightCycler® 96 を用いた定性 PCR
  2.2.1.6. LightCycler® 480 を用いた定性 PCR
  2.2.2. 結果の判定
2.4. トウモロコシ穀粒の検査法(遺伝子組換え農産物混入の判定に係る検査法)
 2.4.1. リアルタイム PCR を用いた定性 PCR 法
  2.4.1.1. ABI PRISM® 7900HT 96 well を用いた定性 PCR
  2.4.1.2. Applied Biosystems® 7500 を用いた定性 PCR
  2.4.1.3. QuantStudio 5 を用いた定性 PCR
  2.4.1.4. QuantStudio 12K Flex を用いた定性 PCR
  2.4.1.5. LightCycler® 96 を用いた定性 PCR
  2.4.1.6. LightCycler® 480 を用いた定性 PCR
  2.4.2. 結果の判定

 なお、日本への輸入食品を取り扱われる方は、検査対象の遺伝子組換え食品が日本において「安全性審査済みであるか」を別途確認する必要がありますのでご注意ください。

「遺伝子組換えでない」表示は“不検出”が条件


 検査の目的は「意図せざる混入」が「5%以下であるか」「不検出であるか」を確認することにあります。先述の「遺伝子組換え表示制度に関する検討会報告書」を受け、2019年4月の食品表示基準改正により、「不検出」でない限り「遺伝子組換えでない」と表示することはできなくなったためです。ただし5%以下であれば「分別生産流通管理が適切に行われている旨」を任意で表示することができます。

 第46回食品表示部会(内閣府消費者委員会)で使用された資料「(資料4)新たな遺伝子組換え表示制度に係る内閣府令一部改正案の考え方(2018年10月10日)」に、改正について分かりやすい比較図が使用されていますので、こちらに引用します。

現行の遺伝子組換え表示制度と改正後の遺伝子組換え表示制度

※「分別生産流通管理が適切に行われている旨」については、その後、食品表示基準Q&Aに以下の表示例が示されています。

(一括表示事項欄に表示する場合の例)
「大豆(分別生産流通管理済み)」
「大豆(遺伝子組換え混入防止管理済)」 等

(一括表示事項欄外に表示する場合の例)
「大豆は、遺伝子組換えのものと分けて管理したものを使用しています。」
「原材料に使用している大豆は、遺伝子組換えの混入を防ぐため分別生産流通管理を行っています。」 等

<2019年4月の改正のポイント>

  • 「遺伝子組換えでない」表示が認められる条件を現行制度の「(大豆及びとうもろこしについて、意図せざる混入率)5%以下」 から「不検出」に引き下げる。
  • 5%以下の場合、分別生産流通管理が適切に行われている旨の表示を任意で行うことができる。

 2019年4月の食品表示基準改正(遺伝子組換え表示制度改正)の経過措置期間は2023年3月末です。
「遺伝子組換えでない」表示をされている商品を取り扱う事業者の方はすでに準備をされているところと思いますが、そうでない方は、検査法の新設が公表された今回をきっかけに改めて遺伝子組換え表示制度について確認される機会にしていただければと思います。


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川合 裕之

代表取締役社長株式会社ラベルバンク
食品表示検査業をしています。国内と海外向けに、食品表示検査と原材料調査サービスを提供している経験をもとに、食品表示実務に関する講演をしています。

■職歴・経歴
1974年 岡山県生まれ
食品メーカー勤務後、2003年に食品安全研究所(現株式会社ラベルバンク)を設立。
「分かりやすい食品表示」をテーマとし、「食品表示検査・原材料調査」などの品質情報管理サービスを国内から海外まで提供しています。また、定期的に講演活動も行っています。

■主な著作物・寄稿ほか
【共著】
『新訂2版 基礎からわかる食品表示の法律・実務ガイドブック』 (第一法規株式会社, 2023)

【寄稿】
・2024年 第65巻 第4号 『食品衛生学雑誌』(公益社団法人日本食品衛生学会)「海外輸出向け食品における各国基準(添加物、栄養成分表示)の調査と実務上の課題」
・2021年10月『Wellness Monthly Report』(Wellness Daily News)40号
「食品表示関連規則の改正状況 今後の『食品表示』実務上のポイント」
・2020年2月『月刊 HACCP』(株式会社鶏卵肉情報センター)「アレルゲン表示の現状と留意点」
・2017年~2018年連載 『食品と開発』(UBMジャパン)「表示ミスを防ぐための食品表示実務の大切なポイント~」

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【講義】
・2009~2014年 東京農業大学生物産業学部 特別講師

■最近の講演・セミナー実績
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