産地や名称の表示について、昨今何かと話題に上ることが多い水産物ですが、その名称の表示は、日本では「魚介類の名称のガイドライン」に従って表示されることとされています。では諸外国ではどの様なルールに基づき、その表示を行っているのでしょうか。EU、米国、カナダ、オーストラリア/ニュージーランドのケースを見てみたいと思います。
「魚介類の名称のガイドライン」(日本)
日本では、魚介類の名称は「魚介類の名称のガイドライン」(食品表示基準Q&A 別添)に記載されている標準和名の表示を基本としています。但し、馴染みのない標準和名等の表示によって消費者が混乱することがない様、種に応じて、より広く一般に使用されている名称があれば、この名称を表示することができます。ガイドラインの「(別表1)」には、魚介類の「標準和名」の他、これに代わる一般名称例、そして該当する学名も列記されています。
食品表示基準Q&A 別添 魚介類の名称のガイドライン(消費者庁)
標準和名に併記されている学名は、表示の対象となる水産物の名称を決める上で参照出来るほか、外来種等、標準和名が付けられていない種の名称を決める上でも、原産国での名称等と併せて、一般に理解される名称を決める上で参照することが出来ます。
A pocket guide to the EU’s new fish and aquaculture consumer labels(EU)
(EUにおける新たな水産物の消費者向け表示のポケットガイド)
EUでは、欧州委員会(European Commission)が発行している上記タイトルのポケットガイド(リンク先は下記*)において、水産物の表示方法を規定しています。その内容は、「生鮮及び一部の加工水産物」と、「その他の加工水産物」の二つに大きく分かれており、二者いずれも名称(法令で定められている名称の他、慣習的に使用される名称や流通上使用される一般的な名称)の表示を義務付けしていると共に、前者については、学名の併記が義務付けられています。
【名称は、前者はCommercial designation、後者はName of the foodとそれぞれ呼んでいます。】
* A pocket guide to the EU’s new fish and aquaculture consumer labels (European Commission)
上記ポケットガイドの根拠となる取り決めは、欧州委員会の以下の情報によるものです。
Commercial and scientific name of the species
Each EU country draws up and publishes a list of the commercial designations accepted in its territory, including accepted local or regional names.
(訳:(水産物の)該当種の名称と学名
EU各国では使用が認められているそれぞれの地域名を含め、名称と学名のリストを策定し、公開している。)
引用:Commercial and scientific name of the species (European Commission)
学名については、欧州委員会の以下のページより確認出来ます。販売する水産物の名称:Commercial designationを入力することにより、その名称に呼応する学名を検索出来、又この学名は、EU加盟各国の言語での名称とも紐づいています。
Commercial designations of fishery and aquaculture products (European Commission)
尚、上記リンク先より得られるのは英語での検索結果ですが、以下のリンク先をクリックすれば、英語を含めた欧州各国の言語での名称:Commercial designation/学名リストを参照することが出来ます。
Commercial designations of fishery and aquaculture products:Language (European Commission)
The Seafood List(米国)
(水産物リスト)
米国の場合、FDAのThe Seafood List(水産物リスト)の構成は、各水産物の「Acceptable Market Name」(FDAが表示上他の水産物の種類との誤認がないとして容認している名称)、Common Name(魚類学者や水産業の専門家などが水産物の種類を特定するのに用いている名称)、そして学名が列記されています。
本サイト並びに以下のサイトでの説明によりますと、基本的には「Acceptable Market Name」を表示する様ですが、「Common Name」を名称として使用する水産物の種類もある様です。学名は、そのものを表示することも可能ですが、あくまで表示対象となる名称が適切かどうかを確認するための参考情報とされており、EUの様な表示義務はありません。
Guidance for Industry: The Seafood List (FDA)
CFIA Fish List(カナダ)
カナダ食品検査庁(CFIA:Canadian Food Inspection Agency)は、CIFA Fish Listにおいて、学名毎にcommon names(一般名称)を英語/フランス語でリストアップしており、これらを記載することを推奨しています。又、これらのリストにない名称については、虚偽の表示や誤認につながる表示にならない様調査することを前提として表示可能としています。以下のサイトを参照下さい。
オーストラリア・ニュージーランド食品規制機関(FSANZ)の場合
オーストラリア・ニュージーランド食品規制機関(FSANZ)のFood Standards Code(オーストラリア・ニュージーランド食品規制基準)においては、魚類の名称は規定していないとされています。
しかしながらオーストラリアの水産業界では、非政府標準化団体であるStandards Australiaと共に、使用可能な名称に関する業界基準を作っている様です。
一方、ニュージーランドについては、第一次産業省(Ministry for Primary Industries:MPI)のサイトより、各魚種に対するマオリ語の名称と学名を確認することが出来ます。
更にFSANZでは、魚種の誤認は、漁獲、卸売の時点からその後の流通を通じて消費者に至るまでのいずれの時点でも起こり得るとして、自分の求めるものを正しく購入する為に、信頼できる鮮魚店やレストランを見つけておく様促していると共に、納得のいく確認に至らなかった場合には、オーストラリア/ニュージーランドいずれにおいてもフリーコールの相談窓口を設けている様です。より詳しい内容は以下リンク先よりご確認下さい。
Fish names (FSANZ)
以上、水産物の名称の表示について、欧米並びにオセアニアの事例を見て参りましたが、類似する若しくは同一の名称が複数の種に紐づいてしまう魚介類について、該当する魚種を誤認のない様に正しく、判りやすい名称で表示するのは、どの国でも共通のテーマになっていると言えると思います。今回の情報が、水産物を取り扱う皆様におかれまして、輸出・輸入の際においても少しでもお役に立てて頂ければ幸いです。
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亀山 明一
趣味は外国文化に触れることと旅行。
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