食品表示基準の一部改正(くるみの義務化等)について諮問されていた改正案に対し、2022年12月13日付で改正案のとおりとする答申がされました。答申書によると、くるみの義務化の経過措置期間は令和7年(2025年)3月31日とされています。一部改正は近く公布、施行される見込みですが、今回の改正を機に、今年を含む数年間の食品表示制度改正と経過措置期間について整理してみたいと思います。
各改正の経過措置期間について
食品表示制度に関する主な改正と経過措置期間について、前後数年のものをまとめると以下のようになります。既に経過措置期間が終了しているもの、経過措置期間終了までわずかなものもありますので、あらためて確認していただければと思います。
主な改正 | 経過措置期間 |
---|---|
新たな原料原産地表示 | 2022年3月末に経過措置期間終了(済) |
添加物表示(人工・合成の削除) | 2022年3月末に経過措置期間終了(済) |
“遺伝子組換えでない”表示 | 2023年3月末に経過措置期間終了 |
添加物不使用表示ガイドライン | 2024年3月末に経過措置期間終了 |
くるみのアレルゲン表示義務化 | 2025年3月末に経過措置期間終了 |
なお、2022年12月13日付で答申された食品表示基準一部改正には、「特定遺伝子組換え農産物へのEPA・DHA産生なたねの追加」も含まれます。その他、2022年12月に「健康食品に関する景品表示法及び健康増進法上の留意事項改定」がありました。
“遺伝子組換えでない”表示
2019年4月に、主に以下の2点について改正されたものです。
- “遺伝子組換えでない”表示が認められる条件を現行制度の「(大豆及びとうもろこしについて意図せざる混入率)5%以下」から「不検出」に厳格化する。
- 5%以下の場合、分別生産流通管理が適切に行われている旨の表示を任意で行うことができる。
最大5%混入しているにもかかわらず、“遺伝子組換えでない“表示を可能としていることは誤認を招く等の意見をもとに、誤認防止等の観点により改正された経緯があります。
改正による主な注意点は、2023年4月1日以降、「遺伝子組換えでない」旨の表示は、適切に分別流通管理を行った上で、遺伝子組換え農産物の混入がないと認められる大豆・とうもろこし及びこれらを原材料とする加工食品に限り、表示することができるようになる点です。
例えばこれまで「大豆(遺伝子組換えでない)」と表示していたところ、遺伝子組換え大豆が混入しないように、適切に分別生産流通管理が行われた大豆を原材料としている場合は、「大豆(分別生産流通管理済み)」や「大豆(遺伝子組換え混入防止管理済)」などの「分別生産流通管理が適切に行われている旨」の表示に変更しているケースがみられます。
添加物不使用表示ガイドライン
2022年3月に、注意すべき食品添加物の不使用表示として10の類型が公表されたものです。
類型1:単なる「無添加」の表示
類型2:食品表示基準に規定されていない用語を使用した表示
類型3:食品添加物の使用が法令で認められていない食品への表示
類型4:同一機能・類似機能を持つ食品添加物を使用した食品への表示
類型5:同一機能・類似機能を持つ原材料を使用した食品への表示
類型6:健康、安全と関連付ける表示
類型7:健康、安全以外と関連付ける表示
類型8:食品添加物の使用が予期されていない食品への表示
類型9:加工助剤、キャリーオーバーとして使用されている(又は使用されていないことが確認できない)食品への表示
類型 10:過度に強調された表示
現状の曖昧な食品表示基準Q&Aを基に「無添加」等の表示を事業者が任意で行っていることが、消費者意向調査において一部の消費者が「無添加」等の表示を理解していない結果が得られた理由の一つとも考えられる等の意見をもとに、ガイドラインの策定に至った経緯があります。
ガイドラインによる主な注意点は、各類型の例に当てはまることだけではなく、商品の性質等などを基にケースバイケースで全体として、表示禁止事項に該当すると判断される場合がある点といえます。
ガイドラインを補足する情報として、2022年6月に消費者庁より「啓発チラシ・ポスター」(途中修正あり)と「10類型イラスト」が公表されていますので、あわせて参考にされるとよいと思います。
くるみのアレルゲン表示義務化
2022年12月13日付で答申された食品表示基準の一部改正により、別表第十四にくるみが追加されるものです。
別表第十四(改正前) | 別表第十四(改正後) |
---|---|
えび かに 小麦 そば 卵 乳 落花生 |
えび かに くるみ 小麦 そば 卵 乳 落花生 |
平成30年度食物アレルギーに関連する食品表示に関する調査研究事業報告書において、くるみを筆頭に木の実類の即時型アレルギーの健康被害が大幅に増加していると報告されたこと等を受け、改正に至った経緯があります。
なお、その後の令和3年度の調査においてもさらに症例数が増えている背景があります。
原因食物 | 区分 | 平成24年度 | 平成27年度 | 平成30年度 | 令和3年度 |
---|---|---|---|---|---|
くるみ | 即時型症例数 | 40 | 74 | 251 | 463 |
ショック症例数 | 4 | 7 | 42 | 58 |
以上、現状でいくつかある食品表示制度改正とその経過措置期間について整理をしてみました。とりわけアレルゲンの“くるみ“については、上記のような背景があることから、これまでの義務表示7品目のみを表示している商品のうち、アレルゲンとして“くるみ”を含むものについては、できるだけ早く対応することが必要といえるでしょう。
また今後、食品表示に関する新しい改正情報などがあれば、こちらで取り上げるようにしたいと思います。
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川合 裕之
■職歴・経歴
1974年 岡山県生まれ
食品メーカー勤務後、2003年に食品安全研究所(現株式会社ラベルバンク)を設立。
「分かりやすい食品表示」をテーマとし、「食品表示検査・原材料調査」などの品質情報管理サービスを国内から海外まで提供しています。また、定期的に講演活動も行っています。
■主な著作物・寄稿ほか
【共著】
『新訂2版 基礎からわかる食品表示の法律・実務ガイドブック』 (第一法規株式会社, 2023)
【寄稿】
・2024年 第65巻 第4号 『食品衛生学雑誌』(公益社団法人日本食品衛生学会)「海外輸出向け食品における各国基準(添加物、栄養成分表示)の調査と実務上の課題」
・2021年10月『Wellness Monthly Report』(Wellness Daily News)40号
「食品表示関連規則の改正状況 今後の『食品表示』実務上のポイント」
・2020年2月『月刊 HACCP』(株式会社鶏卵肉情報センター)「アレルゲン表示の現状と留意点」
・2017年~2018年連載 『食品と開発』(UBMジャパン)「表示ミスを防ぐための食品表示実務の大切なポイント~」
>> 寄稿の詳細はこちら
【講義】
・2009~2014年 東京農業大学生物産業学部 特別講師
■最近の講演・セミナー実績
・2024年4月11日 “低糖質、〇〇不使用、植物由来、機能性等” 健康に関する食品の輸入および輸出時の表示確認の実務について
アヌーガ・セレクト・ジャパン様主催。
・2023年12月21日 輸出食品における各国基準(添加物および食品表示等)調査と実務上のポイント
一般財団法人食品産業センター様主催。
・2023年11月9日 食品表示基準と実務上の大切なポイント~保健事項、衛生事項を中心に~
千代田保健所様主催。
・2023年11月8日 添加物の不使用表示について
株式会社インフォマート様主催。
・2023年10月12日~13日 海外輸出向け食品の表示(添加物、栄養成分等)について
公益社団法人日本食品衛生学会様主催。
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