2023年1月13日、消費者庁は「景品表示法検討会報告書」を公表しました。2022年3月より10回の検討を経て報告書としてとりまとめたものですが、「事業者が是正の計画を申請できる確約手続の導入」「繰り返しの違反行為に対する課徴金の割増」など、今後の検討課題などが整理されています。今回は、これらの検討の背景や課題の概要などについてお伝えしたいと思います。
検討の背景
2022年3月の検討会開催趣旨は以下のとおりです。
一般消費者が商品やサービスを自主的かつ合理的に選択できる環境を確保することを目的とする景品表示法については、平成 26 年に法改正が行われたところ、改正法の施行から一定の期間が経過したこと及びデジタル化の進展等の景品表示法を取り巻く社会環境の変化等を踏まえ、消費者利益の確保を図る観点から必要な措置について検討するため、景品表示法検討会を開催する。
社会環境の変化としては、「デジタル化の進展により、電子商取引が盛んとなった」「その広告表示もインターネットによるものが主流になった」「国際的な取引も盛んに行われている」などが挙げられています。
また最近の景品表示法の運用では、「課徴金制度が導入されたことにより事件処理に要する期間が長期化」しており、「端緒件数が増加傾向」にあるが「措置件数を増加させることができていない」状況であるとされています。その一方で「繰り返し違反行為を行う事業者」等の存在を、検討の背景として挙げています。なお、悪質な違反行為の例として以下の事例等が掲載されています。
<事例1:優良誤認>
当該事業者は、サプリメントを一般消費者に販売するに当たり、SNS内のアカウントの投稿において、あたかも、本件サプリメントを摂取することで、一定の効果が得られるかのように示す表示をしていたが、調査をしたところ、当該事業者は当該表示の裏付けとなる根拠を示す資料を全く有していなかった。
検討すべき課題
報告書では検討すべき課題を早期に対応すべきものと中長期的に対応すべきものとに分け、以下のようにとりまとめています。
1 早期に対応すべき課題
(1) 事業者の自主的な取組の促進(確約手続の導入)
(2) 課徴金制度における返金措置の促進(電子マネー等の活用など)
(3) 違反行為に対する抑止力の強化
(課徴金の割増算定率の適用、課徴金の算定基礎となる売上額の推計等)
(4) 刑事罰の活用
(5) 国際化への対応(海外等に所在する事業者への執行の在り方など)
(6) 買取りサービスに係る考え方の整理
(7) 適格消費者団体との連携
(8) 法執行における他の制度との連携
(9) 都道府県との連携
(10) 不実証広告に関する民事訴訟における立証責任等2 中長期的に検討すべき課題
(1) 課徴金の対象の拡大
(2) デジタルの表示の保存義務
(3) 供給要件(「自己の供給する商品又は役務」)を満たさない者への規制対象の拡大
(4) ダークパターン
上記のうち、事業者側が注目すべきポイントとして「事業者が是正の計画を申請できる確約手続の導入」「繰り返しの違反行為に対する課徴金の割増」の2点を取り上げてみたいと思います。報告書でのとりまとめは、以下のとおりです。
(1) 事業者の自主的な取組の促進(確約手続の導入)
“現行景品表示法においては、(中略)意図せずに結果的に不当表示を行った事業者であり、表示の改善等自主的な取組を積極的に行おうとする場合であっても、違反行為が認められれば、措置命令等の対象となる。”
“これまで、不当表示事案に対する法的措置としては、措置命令又は課徴金納付命令によって対処されてきたが、例えば、自主的に十分な内容の取組を確実に実施できると見込まれる事業者については、これらの命令を行うよりも、事業者の自主的な取組を促した方がより早期に是正が図られると考えられる。”
なお、確約が履行されなかった場合の対応等については、「ガイドライン等で明確化を図るべき」としています。
(3) 違反行為に対する抑止力の強化(課徴金の割増算定率の適用、課徴金の算定基礎となる売上額の推計等)
”景品表示法違反行為を行った事業者の中には、一度措置命令又は課徴金納付命令を受けたにもかかわらず、繰り返し違反行為を行う事業者がいる。このような事業者に対しては現行の制度では十分な抑止力が働いているとはいい難いことから、そのような事案に即した抑止力を強化する必要がある。”
”景品表示法においても、抑止力を高めるため、(中略)繰り返し違反行為を行う事業者に対しては割り増した算定率を適用すべきである。”
また「違反事業者が公正取引委員会の調査において資料を提出しないなど」による課徴金の算定の課題については、「課徴金対象行為に係る売上額等を合理的な方法により推計できるとする規定を整備すべき」としています。
今後について
報告書の提言を受け、今後は消費者庁が景品表示法の改正案の検討作業を進めることになります。食品表示に関する業務を担当される方のうち、とりわけ健康食品など健康や機能性についての表示のある商品をお取り扱いの方は、報告書の内容を一度読んでおかれるとよいと思います。また広告表示の確認業務まで担当される方は、昨年12月28日に公表された「ステルスマーケティングに関する検討会報告書」もあわせて読んでおかれるとよいでしょう。
参照:
景品表示法検討会(消費者庁)
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川合 裕之
■職歴・経歴
1974年 岡山県生まれ
食品メーカー勤務後、2003年に食品安全研究所(現株式会社ラベルバンク)を設立。
「分かりやすい食品表示」をテーマとし、「食品表示検査・原材料調査」などの品質情報管理サービスを国内から海外まで提供しています。また、定期的に講演活動も行っています。
■主な著作物・寄稿ほか
【共著】
『新訂2版 基礎からわかる食品表示の法律・実務ガイドブック』 (第一法規株式会社, 2023)
【寄稿】
・2024年 第65巻 第4号 『食品衛生学雑誌』(公益社団法人日本食品衛生学会)「海外輸出向け食品における各国基準(添加物、栄養成分表示)の調査と実務上の課題」
・2021年10月『Wellness Monthly Report』(Wellness Daily News)40号
「食品表示関連規則の改正状況 今後の『食品表示』実務上のポイント」
・2020年2月『月刊 HACCP』(株式会社鶏卵肉情報センター)「アレルゲン表示の現状と留意点」
・2017年~2018年連載 『食品と開発』(UBMジャパン)「表示ミスを防ぐための食品表示実務の大切なポイント~」
>> 寄稿の詳細はこちら
【講義】
・2009~2014年 東京農業大学生物産業学部 特別講師
■最近の講演・セミナー実績
・2025年1月28日 加工食品の各国の表示作成実務における留意点について
一般財団法人食品産業センター様主催。
・2025年1月23日 日本の食品表示制度の改正状況~まとめと今後について
株式会社ウェルネスニュースグループ様主催。
・2024年4月11日 “低糖質、〇〇不使用、植物由来、機能性等” 健康に関する食品の輸入および輸出時の表示確認の実務について
アヌーガ・セレクト・ジャパン様主催。
・2023年12月21日 輸出食品における各国基準(添加物および食品表示等)調査と実務上のポイント
一般財団法人食品産業センター様主催。
・2023年11月9日 食品表示基準と実務上の大切なポイント~保健事項、衛生事項を中心に~
千代田保健所様主催。
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