前回、「変わりゆく食品市場と各国における表示規制の動向について」を紹介して以降、新型コロナウイルスの蔓延により、世界の健康をとりまく状況がその市場に急激に大きく変化しました。その結果、免疫力を高めたいという消費者のニーズに応えて、より多くの健康食品やサプリメントが出回るようになりました。それゆえに、国際的にみて、消費者の誤解を防ぎ、食品の安全性と品質を保証するための努力が注目されています。食品表示は、私たちに正しい情報を提供し、製品の選択を容易にさせる究極の鍵ともいえます。
今回は、健康トレンドの要素を中心に各国の最新情報を、実際の日本の表示規制の状況と比較しながらお話ししたいと思います。
1. 栄養成分表示に関する最新情報
米国の規制では、ほとんどの加工食品(ベーカリー、冷凍食品、缶詰、飲料、菓子など)に栄養成分表示が義務付けられていますが、従来の食品(すなわち、果物、野菜、魚等の生鮮食品類)は任意表示となっています。新しい栄養成分表示は、包装済み食品で目にすることができます。年間売上高にかかわらず、すでに表示切替の期限を過ぎていますが、単一成分の糖類製品(蜂蜜、メープルシロップ、一部のクランベリー製品など)を扱うメーカーは、年間売上高にかかわらず、今年の7月1日まで切替の猶予があります。ちなみに、日本のすべての加工食品を対象とした栄養成分に関する施行の移行期間は、2020年3月に終了しています。
一方、欧州委員会(European Commission、略称:EC)は、欧州食品安全機関(European Food Safety Authority、略称:EFSA)と協力し、パッケージの前面(front-of-pack(FOP))の栄養成分表示の義務化と特定の表示に対する規制を「調和」させるための提案を提出する予定です。なお、欧州食品安全機関(EFSA)は、その欧州委員会(EC)の活動を支援するための科学的意見を 2022 年 3 月までに提出するよう要請されています。
FOPの栄養成分表示は、英国でも継続的な関心事となっています。これは、エネルギー表示の他に製品中の脂肪、飽和脂肪、砂糖、塩の含有量を消費者がよりよく理解できるようにするため、信号機の色(高(赤)、中(黄)、低(緑))をコンセプトとした表示です。なお、この栄養表示制度に対する消費者のよりよい理解を図るための意見募集は、2020年11月までに終了しています。
英国では、2021年1月1日以降、栄養成分関連の表示、組成、基準等に関するガイダンスが始まっているものと思われます。
「信号機の色」といえば、2019年10月10日、社会的に増加している2型糖尿病の症例と継続的に取り組むためシンガポール保健省(Ministry of Health、略称MOH)は、糖分や飽和脂肪の含有量が高いすべての包装済みノンアルコール飲料に「Nutri-Grade」(FOPとも呼ばれる)を義務付けることを発表しました。
ラベルの栄養成分表示部分は、4つの色分け(緑、薄緑、オレンジ、赤)で表示され、色分けに続き記載される文字(A〜D)は糖分や飽和脂肪の含有量を表しています。Dは最も不健康な含有量を表し、販売者・製造者は関連するマスメディア広告を行うことができません。シンガポール政府は現在、より健康的な飲料のための配合見直しをメーカーに促しています。考え方や過程に違いはあっても、最終的な目標は「肥満やそれに起因する病気を防ぐことで消費者の健康を守り、向上させること」です。
以上が、各国の栄養成分表示に対する捉え方の事例ですが、「健康」に関する商品については、政府によって分類がかなり異なります。日本の健康食品の表示制度については、こちらの記事をご覧ください。
2. 添加物に関する最新情報
食品添加物の使用許可範囲は、新しい科学的証拠が得られたり、特定の物質を食品に使用することで長期的な結果が得られたりすることにより、常に変化しています。また、日本では、消費者に誤解や混乱を与えないよう、甘味料、保存料、着色料、香料に使用される「人工」や「合成」という用語の使用が2020年7月16日から食品表示基準から削除されています。なお、経過措置期間として、2022年3月31日までに製造され、加工され、又は輸入される加工食品(業務用加工食品を除く)及び同日までに販売される業務用加工食品の添加物の表示については、従前の例によることができることとしています。
韓国では、2021年3月9日に食品添加物の規格・基準に関する一部改正通知を出しました(即日発効)。主な内容は、食品添加物の天然由来の認定範囲の拡大に関するもので、特に安息香酸は天然で微量に検出され、技術的な影響や安全性に影響を及ぼさないというものです。そのほか、4つの添加物(酢酸エチル、イソプロピルアルコール、ナイシン、ソルビン酸)の使用基準の改訂、器具などの殺菌・消毒剤に関する規制の再編成に伴う食品消毒剤の改良、5′-リボヌクレオチド二ナトリウムなど8つの食品添加物の試験方法の改良、フクシン亜硫酸試液(直訳)の製造方法の改訂などが行われています。
また、カナダと台湾で使用される添加物とその基準に関する発表や更新もいくつか行われています。カナダ政府と「台湾衛生福利部食品薬物管理署」のニュースページを確認することをお勧めします。
3. 強調表示と警告表示
新型コロナウイルスの大流行の中、消費者に誤解を与えないようにするために、健康関連商品の強調表示に関心が集まっています。日本では、消費者庁が先日、科学的根拠のない健康強調表示を用いてウイルスの予防効果をアピールすることについて、通達を出しました。これは、誤解を招くような表示から消費者を守り、透明性を確保するためのものです。
また、消費者庁はこれまでに3回の議論を行い、医学的・栄養学的に適切な科学的根拠が確立されている場合には、特保(特定保健用食品)製品に「疾病リスクの低減」という表現を使用することを認めています。現在、関係する成分の中では、カルシウムが30件、葉酸が0件となっています。詳細については、国内外の疾病リスク低減の訴求事例を紹介した記事をご参照ください。また、シンガポールでは健康強調表示の使用をコントロールする戦略が採用されており、許可された健康強調表示の正確なリストと一定の基準の下でのみ使用することができます。さらなる手引きとして、「Vitamin and Nutrients Calculator」を参照することを強くお勧めします。
一方、グルテンフリーの表示に関連して、米国では発酵食品や加水分解食品の表示に関連する通知が発表されましたので、以下にまとめてみました。
国 | 内容 |
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米国 | 通知日:2020年8月13日 発効日:2020年10月13日 内容 この通知は、発酵または加水分解された食品、または発酵または加水分解された原材料を含む食品の「グルテンフリー」表示に関する適合要件に焦点をあてたものです。 アメリカ食品医薬品局(FDA)はこれまで同量の完全なグルテンタンパク質を検出・定量するのに有効な分析法を確立していないため、「グルテンフリー」を謳った食品は、製造者の記録に基づいて判断されることになります。ポイントは、製造工程でのグルテンのクロスコンタミが起こらないようにすることと、すべての防止策がとられていることです。 この通知を通してFDAは、セリアック病患者が誤解を受けることなく、真実で正確な情報を受け取ることができるよう努めています。 |
また、「有機生産および有機製品の表示に関する欧州議会・理事会規則“Regulation (EU) 2020/1693 of the European Parliament and of the Council of 11 November 2020 amending Regulation (EU) 2018/848 on organic production and labelling of organic products as regards its date of application and certain other dates referred to in that Regulation”」は2020年11月20日に発行された有機生産と有機製品の表示に関連の規則ですが、Council Regulation (EC) No 834/2007を廃止後の新しい適用期限を確認することができますのでご覧になることをお勧めします。英国の状況が気になるところですが、欧州委員会は、EU離脱後の2021年1月1日から1年間、英国で運営されている6つの有機認証制度を承認しています。
4.アレルゲン表示
アレルゲンは、特定の原材料に特に敏感な消費者にとって、非常に重要な問題です。以下の国のアレルゲン表示の最新情報は次のとおりです。
国 | 内容 |
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英国 | 通知日:2020年10月1日 発効日:2021年10月1日 内容 以前は、直販用包装食品(PPDS)にアレルゲンの含有量や原材料が記載されていないことで、アレルゲンが含まれていないと信用する消費者や、店員に含有量を質問する消費者もいました。それでは十分に効果が出ているとはいえず、消費者保護も行われているとはいえませんでした。そこで、繰り返し起こるアレルゲン関連の事件を受けて、食物アレルギーや不耐性を持つ消費者を保護するために、これらの製品には、食品名、全原材料リスト、そしてリスト内でアレルゲンを強調して表示することが義務付けられることになりました。 PPDSとは、消費者向けの販売・提供場所が同一で、注文・選択前にこの包装がされる食品のことです。(例:ツナサンドイッチ、ベーカリー製品、サラダ、カップに入ったパスタなど)以下の14種類の原材料が影響力の強いアレルゲンとして確認されています。 セロリ、グルテンを含む穀類(大麦、オーツ麦など)、甲殻類(エビ、カニ、ロブスターなど)、卵、魚、ルピナス、乳、軟体動物(ムール貝、カキなど)、マスタード、ピーナッツ、ごま、大豆、二酸化硫黄と亜硫酸塩(10ppmを超えるもの)、木の実(アーモンド、ヘーゼルナッツ、クルミ、ブラジルナッツ、カシューナッツ、ペカン、ピスタチオ、マカデミアナッツ) これらの原材料は、太字、斜体など目立つように表記しなければなりません。また、「may contain」や「not suitable for」などの表現も認められています。 イングランド、ウェールズ、北アイルランドで適用されます。 |
オーストラリア、ニュージーランド | 通知日:2021年2月25日 発効日:即日 移行期間:3年間 内容 オーストラリア・ニュージーランド食品基準コード(the Code)では、食品アレルゲンの表示について、以下の新しい要件が導入されました。
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結論として、前述のとおり政府の努力は、食品表示規制の更新と改善に取り組むことと、新型コロナウイルスからの免疫強化と予防に関連する効果の強調表示を謳った健康食品を管理することに分かれているといえます。このような努力は、そのような製品を消費することによって生じる誤認や不幸な結果を避ける為のものです。
なお、英国に食品を輸出する場合、EU離脱後の表示規制や要件はかなり混乱するかもしれません。EUの法律が英国でも正しく機能するように、制定されたEU離脱に関する法律を常に読み合わせておくことを強くお勧めします。
Legislation.gov.uk
Approved additives and E numbers
1. 栄養成分表示に関する最新情報
- 栄養成分表示の変更について(米国)
- 調和のとれたパッケージ前面の栄養成分義務表示の開発と、食品の栄養・健康強調表示を制限するための栄養成分概要説明の設定に関する科学的助言の要請(EU)
- 英国におけるパッケージ前面の栄養成分表示の成功に向けて:意見募集
- 英国におけるパッケージ前面の栄養成分表示:成功に向けて
- 栄養法令の情報源(英国)
- よくある質問(シンガポール)
- 保健省 (シンガポール) 包装済み砂糖入り飲料からの糖分摂取を減らすための対策を導入
2. 添加物に関する最新情報
3. 強調表示と警告表示
4.アレルゲン表示
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イクラム
趣味は料理。
・2023年12月『食品と開発』(健康メディア.com)「海外の栄養プロファイリングシステムと栄養表示制度」
【最近の講演・セミナー実績】
・2024年9月3日「日本の食品・飲料市場について: 食品基準、添加物、表示基準」Kansai Food & Beverage Forum 2024:CCI France Japon様主催。
・2024年4月12日「日本の菓子市場について:食品基準、添加物、表示基準」 ISM Japan 国際菓子専門見本市様主催。
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