「低塩」「無糖」の表示基準について~海外のlow-salt-low-sugar表示動向を参考に~

By | 2021年11月8日


 2021年9月、香港食品環境衛生局食品安全センター(CFS)は、容器包装済み食品に任意で表示できる新しい取り組みとしてlow-salt-low-sugarマークを発表しました。健康志向を背景に、ナトリウム(塩)と糖類の表示に対する関心が世界各国で高まっているものと思われます。今回のコラムでは、日本の現状の制度における「低塩」や「無糖」などの表示基準について整理してみたいと思います。

適切な摂取ができる旨(含まない、低い、低減された旨)について


 「無糖」「低塩」「糖類25%オフ」といった強調表示については、「栄養成分又は熱量の適切な摂取ができる旨」として食品表示基準別表第十三に基準値が定められています。「無糖」などの「含まない旨」は基準値未満である場合に、「低塩」などの「低い旨」は基準値以下である場合に表示できます。「糖類25%オフ」などの「低減された旨」については、他の同種の食品に比べて低減された当該栄養成分の量が基準値以上であって、かつ低減された割合が25%以上である場合に表示できます。なお「糖質」については設定がないため、「糖質〇〇%オフ」と表示する場合は事業者で判断することになります。

栄養成分 含まない旨の表示の基準値 低い旨の表示基準値 低減された旨の表示の基準値
食品100g当たり(括弧内は、一般に飲用に供する液状の食品100ml当たりの場合)
ナトリウム 5mg(5mg) 120mg(120mg) 120mg(120mg)
糖類 0.5g(0.5g) 5g(2.5g) 5g(2.5g)

 具体的な表示例については、「<事業者向け>食品表示法に基づく栄養成分表示のためのガイドライン 第3版」に記載されているので、一度確認されておかれるとよいでしょう。

例)
含まない旨:無〇〇、〇〇ゼロ、ノン〇〇、等
低い旨:低〇〇、〇〇ひかえめ、〇〇少、〇〇ライト、ダイエット〇〇、等
低減された旨:〇〇30%カット、〇〇10gオフ、〇〇ハーフ、等

 栄養成分の測定方法は、食品表示基準別表第九に定められています。ナトリウムは「原子吸光光度法又は誘導結合プラズマ発光分析法」により測定し、食塩相当量に換算(ナトリウムmg×2.54÷1000=食塩相当量g)した値を、栄養成分表示の食塩相当量として小数第一位まで表示します。糖類は「ガスクロマトグラフ法又は高速液体クロマトグラフ法」により測定します。なお糖類については「単糖類又は二糖類であって、糖アルコールでないものに限る」と定義されている点に留意が必要です。

添加していない旨について


 「食塩無添加」「食塩不使用」や「糖類無添加」「砂糖不使用」といった強調表示については、「添加していない旨」として食品表示基準第七条に要件が定められています。ナトリウム塩は、塩化ナトリウムの他、リン酸三ナトリウム、グルタミン酸ナトリウムなど調味料としての添加物にも使用されるため、物質名まで確認することが必要です。糖類は「単糖類又は二糖類であって、糖アルコールでないものに限る」と定義されており、例としてはショ糖、ぶどう糖、ハチミツ、コーンシロップなどが該当します。

ナトリウム塩を添加していない旨 次に掲げる要件の全てに該当する場合には、ナトリウム塩を添加していない旨の表示をすることができる。

  1. いかなるナトリウム塩も添加されていないこと(ただし、食塩以外のナトリウム塩を技術的目的で添加する場合であって、当該食品に含まれるナトリウムの量が別表第十三の第三欄に定める基準値以下であるときは、この限りでない)。
  2. ナトリウム塩(添加されたものに限る)に代わる原材料(複合原材料を含む)又は添加物を使用していないこと。
糖類を添加していない旨 次に掲げる要件の全てに該当する場合には、糖類を添加していない旨の表示をすることができる。

  1. いかなる糖類も添加されていないこと。
  2. 糖類(添加されたものに限る)に代わる原材料(複合原材料を含む)又は添加物を使用していないこと。
  3. 酵素分解その他何らかの方法により、当該食品の糖類含有量が原材料及び添加物に含まれていた量を超えていないこと。
  4. 当該食品の100g若しくは100ml又は一食分、一包装その他の一単位当たりの糖類の含有量を表示していること。

 また「ナトリウム塩に代わる原材料」の具体例は、ウスターソース、ピクルス、ペパローニ、しょう油、塩蔵魚、フィッシュソース等が、「食品表示基準について」に例示されています。「糖類に代わる原材料」の具体例は、ジャム、ゼリー、甘味の付いたチョコレート、甘味の付いた果実片、濃縮果汁、乾燥果実ペースト等です。

栄養成分表示以外の表示方法(マーク等)について


 日本の食品表示基準の実施機関である消費者庁は、こうした強調表示を促進するためのマーク等の配布は行っていません。消費者庁以外の機関による取り組み例としては、国立循環器病研究センターによる「かるしお認定マーク」と一般社団法人 食・楽・健康協会による「ロカボマーク」などがあります。

海外の動向について


 冒頭で紹介した香港の「低塩」「無糖」などの強調表示基準は、Food and Drugs (Composition and Labelling) Regulations (Cap.132W)に定められています。2021年9月に発表されたlow-salt-low-sugarマーク(図1)は香港食品環境衛生局食品安全センター(CFS)に申請することで使用できるようになり、食品業界による低塩低糖食品の開発を促進することが目的とされています。

図1:”Salt/Sugar” Label Scheme for Prepackaged Food Products(香港)

 カナダでは、FOP(Front of Pack:容器包装前面)表示制度の施行がカナダ保健省により計画されています。対象となる栄養成分は、糖類、ナトリウム、飽和脂肪の3つです。FOP表示としては4案(図2)が検討されており、「High in Sugars(糖類を多く含む)」「High in Sodium(ナトリウムを多く含む)」などのデザインが検討されています。

Food Front-of-Package Nutrition Symbols

図2:Food Front-of-Package Nutrition Symbols(カナダ)

 アメリカでは2018年の栄養成分表示制度改正の際に、新しく「添加糖類(Added Sugars)」の表示事項が必要になっています。添加糖類には、食品の加工中に添加される糖類が含まれ、シロップおよびハチミツに由来する糖類のほか、濃縮された果物または野菜ジュースに由来する糖類も含まれます。

 日本では栄養成分表示に関する改正計画は現時点で発表はされていませんが、「低塩」や「無糖」などの強調表示がされた食品は一般的なものとなっています(またナトリウムや糖類などの過剰摂取につながる恐れのある食品は機能性表示食品の対象外となっています)。こうした強調表示をする食品を販売する場合だけでなく、新しく日本への輸入や海外への輸出をしようとする場合に、参考にしていただける機会になれば幸いです。


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【海外輸出】原材料調査&食品表示調査:配合表、原材料規格書をもとに、原材料及び添加物の使用基準との適合性を検証します。また配合表、製品規格書等をもとに、原材料名や栄養成分等の食品表示案との適合性を検証します。輸出対象国の基準情報整理と確認業務の構築などにご利用いただいております。

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川合 裕之

代表取締役社長株式会社ラベルバンク
食品表示検査業をしています。国内と海外向けに、食品表示検査と原材料調査サービスを提供している経験をもとに、食品表示実務に関する講演をしています。

■職歴・経歴
1974年 岡山県生まれ
食品メーカー勤務後、2003年に食品安全研究所(現株式会社ラベルバンク)を設立。
「分かりやすい食品表示」をテーマとし、「食品表示検査・原材料調査」などの品質情報管理サービスを国内から海外まで提供しています。また、定期的に講演活動も行っています。

■主な著作物・寄稿ほか
【共著】
『新訂2版 基礎からわかる食品表示の法律・実務ガイドブック』 (第一法規株式会社, 2023)

【寄稿】
・2024年 第65巻 第4号 『食品衛生学雑誌』(公益社団法人日本食品衛生学会)「海外輸出向け食品における各国基準(添加物、栄養成分表示)の調査と実務上の課題」
・2021年10月『Wellness Monthly Report』(Wellness Daily News)40号
「食品表示関連規則の改正状況 今後の『食品表示』実務上のポイント」
・2020年2月『月刊 HACCP』(株式会社鶏卵肉情報センター)「アレルゲン表示の現状と留意点」
・2017年~2018年連載 『食品と開発』(UBMジャパン)「表示ミスを防ぐための食品表示実務の大切なポイント~」

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【講義】
・2009~2014年 東京農業大学生物産業学部 特別講師

■最近の講演・セミナー実績
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