カナダの食品表示に関する更新および海外諸国の栄養スコア表示等の現状に関する最新情報

By | 2022年6月6日

 食生活は世界各国の健康プロファイルに主な影響を与える生活様式の一つです。糖分や脂肪の過剰摂取による肥満や心血管疾患の発症率の増加を問題視している国もあれば、その様な問題はなく健全と見なされていても、実は栄養不足が懸念されている国もあります。
 このため、政府は常にブレインストーミングを行い、消費者が普段の食事を選択する際のガイドとなる最も明確な「マップ」を作成しています。ここでの「マップ」とは、食品に表示される栄養成分表示と関連する全ての強調表示を指します。

 この記事では、食品に記載されている栄養成分表示と関連する強調表示についての最新情報を紹介します。

1. カナダの栄養成分表示の更新


 カナダ政府は食品事業者が栄養成分表示と原材料リストの新しい要件に対応するための移行期間をCOVID-19による影響を考慮して、2021年12月14日終了予定を2022年まで延長しました。今回の変更は製品内容に対する消費者の理解を深めることを目的とするもので、変更内容は以下の通りとなっています。

カナダの栄養成分表示の新旧比較

図1: カナダの栄養成分表示の新旧比較

 米国の新しい栄養成分表示と比較すると、カナダの新しい表示は消費者が他の類似製品と比較しながらより現実的な選択をするための手助けとなるように、1 serving(一食当たり)の量とそのエネルギーに注意が払われていることがわかります。またカリウムの表示についてもカナダ人の食事に重要であるという理由で追加されましたが、一方でビタミンAとビタミンCについては、カナダ人の食事にはすでに十分であるとして削除されました。

※カナダにはserving sizeの基準量に関する規定があります。

 なお、日本の食品表示基準においては、ミネラル(例:カリウム、カルシウム、鉄など)やビタミン(例:ビタミンA、C、B1 など)などは食品表示基準別表第9に掲げられた栄養成分であり、任意で表示することが可能です。糖類も同様で任意の栄養成分となります(ただし、容器包装にこれらの栄養成分を表示した場合や、規定された成分について栄養強調表示をした場合は義務表示となります)。そしてナトリウムは「食塩相当量」に換算して表示されます。

2. カナダの原材料リストの更新


 さらにカナダ政府は、原材料リストについても規定の改正を発表しており、特に糖類原材料(糖類原材料の定義は別途定められています)の表示について大きな変更がなされています。糖類原材料は基本的に「Sugars」という単語に続いて、括弧内に重量の降順でグループ化して表示しなければなりません。これにより、消費者は食品に含まれる全ての糖類原材料を簡単に見つけることができます。上記の要件は、最終製品1 servingあたり(一食当たり)0.5g以上の糖類が含まれている場合にのみ必要とされます。

 一方、日本では食品表示基準別表第4にて規定されている食品など個別で表示方法が定められていない限り、糖類原材料をグループ化して表示する必要はありません。

 補足として、カナダで販売する製品に炭水化物および糖類に関連する強調表示を行う場合は、使用可能な用語や表現、また必要とされる条件などがまとめられた要約表に記載されている内容を確認する必要があります。「low carbohydrate」や「light」などの強調表示は食品に使用できませんのでご注意ください。
 また糖類原材料以外の更新内容として、着色料に関するものがあります。着色料は個別に認められている一般名で表示する必要があります。その他フォント関連の更新もリストされており、要点は以下の画像にまとめられています。

カナダの原材料リスト

図2: カナダの原材料リスト

3. 各国の容器包装前面表示制度(FOPL)について


3.1.定義

 「FOPL (front-of-pack labelling)」として知られる容器包装前面表示は、加工食品における義務的な栄養成分表示に加え、糖類、脂肪(総脂肪、トランス脂肪酸、飽和脂肪酸)、ナトリウムなどの含有量を強調する形で容器包装の前面にラベリングを行う情報ツールです。消費者が食事やニーズに沿う適切な選択をするための指標を提供することを目的としています。
 FOPLには様々な種類のものがあり、栄養成分表示の追加的要素として、それぞれ異なる目的に応じた役割を果たしています。

システム 使い方
GDA※1 systems
(GDAシステム)

※1 GDA:Guideline Daily Amount(1日摂取量ガイドライン)

栄養成分表示の簡易複製であり、エネルギーと各栄養素について、それらの量と1日食事摂取基準に対する比率が表示されています。 英国:GDA systems
Color-coded GDA/RI※2 FOPL systems
(色分けされたGDA/RI FOPL システム)

※2 RI:Reference Intake(摂取基準)

色分けされたGDAであり、GDAとTLL※3のハイブリッド型の表示方式です。

※3 TLL:Traffic Light Labels(信号機にならった色分け表示)

英国:Color-coded GDA/RI FOPL systems
Summary
systems
(要約システム)
計算されたスコアに基づき、食品の全体的な健康指数を表示します。 Nutri-score
5段階スコア-フランス
Nutri-score
4段階スコア-シンガポール
Nutri-score
Health Star Rating
10段階スコア-オーストラリア
Health Star Rating
Endorsement
systems
(承認ロゴシステム)
製品の健全性を証明するために、特定の基準に基づいて国内、国際的に認知された組織や機関が開発したロゴやシールを使用するもの Nordic KeyholeNordic Keyhole
(Keyholeマーク(スウェーデン食品庁が導入したスキーム)):スウェーデン、ノルウェー、デンマーク、アイスランド、リトアニア、北マケドニアで使用されています。

※Nordic Keyholeを使用する場合は、こちらをご確認ください。

Healthier Choice Symbol (HCS)Healthier Choice Symbol (HCS)
(より健康的な選択シンボル):シンガポールで使用されています。

※HCSを使用する場合は、こちらをご確認ください。

Nutritional warnings systems
(栄養警告システム)
”High in”や”EXCESS”といった表現を使用し、特定の栄養素、具体的には糖類/脂肪(総脂肪、トランス脂肪酸、飽和脂肪酸)、ナトリウムなどを多く含むことを表します。ただし、使用できる表現は国によって異なりますので、使用の前に確認が必要です。 ラテンアメリカおよびカリブ海諸国:
Nutritional warnings systems
チリ、メキシコ、ブラジルなどの一部の国ではすでに施行されており、カナダでの導入が検討されています。

3.2.最新情報と現在の状況

 カナダでは消費者がより健康的な選択をしやすくするための追加のステップとして、ナトリウム、糖類、飽和脂肪酸を多く含む特定の食品にはFOP(容器包装前面)表示の導入がカナダ保健省によって検討されています。他の規定や予想される変更とともに、今年公表される予定です。

 この検討は他の国際機関との正式な規制協力計画の一部となるものではなく、他の国のイニシアチブと一致するものとされています。カナダ保健省は、これらの改正への対応を2026年1月までに行うものと予想しています。

 ヨーロッパ地域では、英国が最初にFOP表示を導入した国であり、食品事業者に対し容器包装済み食品へのFOP表示を支援/推奨するために、2013年にはガイドラインを公開しています。

 英国のColor-coded GDA(色分けされたGDA)については、色とともに色の意味を説明する単語を追加することで、その意味を強調することも可能です(例:赤色に「High」、オレンジ色に「Medium」、緑色に「Low」の文字をそれぞれ追加するなど)。消費者の誤認を防ぐためにも、こちらは明確かつ包括的な表示方法であることが必要とされます。英国市場においては、流通する多くの食品にすでに採用されています。

 WHOは、Food and Nutrition Action Plan(食料栄養行動計画)2015-2020の一部としてFOP表示の導入を呼びかけました。その後2017年には、フランスが「Nutri-score(栄養スコア)」といわれるFOP表示を自主的に適用しました。栄養スコアはWHOやEUによる奨励のもと、他のヨーロッパ諸国にも採用の広がりが見られています。

3.3 Nutri-score(栄養スコア)表示とEFSAの最新の意見

 Nutri-score(栄養スコア)表示は、英国食品基準庁の栄養素プロファイリングシステム(FSA-NPS)のスコアに基づいて作成されました。緑(グレードA)から赤(グレードE)までの5色と文字でコード化されており、製品の健康度を示しています。この表示により、消費者の選択を助け、食品事業者に対しより健康的な製品の開発を促進することを目的としています。

 スコアの計算は100gまたは100mlごとに行われ、控えるべき要素(エネルギー、飽和脂肪酸、糖類、食塩)とその他の要素(食物繊維、タンパク質、ナッツ、果物、野菜など)の両方を計算対象としています。
 
 欧州委員会は、食品への栄養スコア表示の導入を進めていくことを引き続き提案しています。
しかしながら、最近そのようなシステムの有効性に関して疑問が生じ始めています。

 EFSA (European Food Safety Authority) の最新の科学的見解は以下です。

科学に基づいた食品と栄養素の摂取に関する推奨事項に沿った食事は、健康の重要な決定要因です。食事は複数の食品で構成されており、異なる栄養プロファイルをもつ複数の食品を補完的に摂取することで全体的な食事のバランスをとる必要があるもので、必ずしも単一の食品だけで栄養的に適切な食事の栄養プロファイルに適合させる必要はありません。

 これは、単一の食品の栄養価を分析しても、食事全体の健康状態を検証できるわけではないということを意味します。またこの研究以前にも、イタリアの食品業界団体は製品の栄養価や健康との関連性よりもむしろ、脂肪、食塩、糖類などの含有量が基準とされる栄養スコアの判断システムによって、ほとんどの伝統的な製品(オリーブオイル、パルメザンチーズ、塩蔵肉など)が「不健康」と分類されてしまうことなどを理由に、その判断システムに対する不満を示しています。

 継続して変化する動きは、主に食品ラベルの3つの主要な要素に関連しています。まず1つ目が「原材料リスト」、2つ目が「栄養成分表示」、3つ目が「栄養成分に関する強調表示」であり、それらは食品の安全性と品質を高めることを目的とし、科学的研究と消費者のニーズに基づいたものである必要があります。政府の主な動機は、健康と誠実さであり、消費者が不健康な食事、ライフスタイルに誤ってアクセスすることを避け、食品事業者に対し製品改良のさらなる努力を促すことです。

 各国の最新のアップデートをこまめにご確認されることをお勧めします。


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【海外輸出】原材料調査&食品表示調査:配合表、原材料規格書をもとに、原材料及び添加物の使用基準との適合性を検証します。また配合表、製品規格書等をもとに、原材料名や栄養成分等の食品表示案との適合性を検証します。輸出対象国の基準情報整理と確認業務の構築などにご利用いただいております。

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イクラム

海外調査担当株式会社ラベルバンク
チュニジア出身。生物学を専門とし、海外の原材料、添加物、表示基準の調査業務に従事しています。また海外のお客様とのコミュニケーションを円滑にするサポート業務にも取り組んでいます。
趣味は料理。

【寄稿】
・2023年12月『食品と開発』(健康メディア.com)「海外の栄養プロファイリングシステムと栄養表示制度」

【最近の講演・セミナー実績】
・2024年9月3日「日本の食品・飲料市場について: 食品基準、添加物、表示基準」Kansai Food & Beverage Forum 2024:CCI France Japon様主催。
・2024年4月12日「日本の菓子市場について:食品基準、添加物、表示基準」 ISM Japan 国際菓子専門見本市様主催。

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