2023年9月4日、英国食品基準庁(FSA)は「アレルゲン表示に関する情報技術ガイダンス」の最新情報を公表しました。ガイダンスでは食品企業に対し、とりわけ「予防的アレルゲン表示(Precautionary Allergen Label (PAL))※」の使用の見直しを推奨しています。
(※PALとは、「May Contain Nuts(ナッツが含まれる可能性がある)」といった表示のことを指します)
- PALは、分離や洗浄では十分に制御できないアレルゲンの相互汚染のリスクが避けられない場合にのみ使用すること。
- 「ナッツが含まれる可能性がある」ではなく、「ピーナッツが含まれる可能性がある」など、PAL が 14 種類の主要アレルゲンのうちどれを指すのかを明示すること。
- 「ビーガン」表示がありながら、アレルゲンとの相互汚染のリスクが特定されている場合は、PALを組み合わせて使用すること。
「不使用」といった安全情報に関する表示と「ビーガン」表示は、それぞれ異なる消費者に異なる情報を伝えているため。
同ガイダンスは、企業の適切なアレルゲン表示の実効性をサポートする一方で、アレルゲンをもつ消費者の食品選択を不必要に制限しないことを目的に作成されています。今回の最新版では、「不使用」といった安全情報に関する表示とPALを併用しないことや、「グルテン含有成分不使用(No Gluten Containing Ingredient(NGCI))」表示に関する注意事項などもあわせて情報提供がなされています。
PALについては、その他の国でも運用に注意がなされているケースがあります。例えばシンガポール食品庁(SFA)では「PALの使用」について、「相互汚染に関する徹底的なリスク評価を伴うこと」「消費者の食品選択が制限されるため、必要な場合にのみ行うこと」としています。また同庁は、アレルゲンの相互汚染のリスク評価に関する支援だけでなく、相互汚染のレベルに応じた適切な予防的アレルゲン表示が示唆するものとして、オーストラリア・ニュージーランドのアレルゲン局が提供するVITAL(Voluntary Incidental Trace Allergen Labelling)プログラムの参照を推奨しています。
そして国際的なガイダンスの策定ですが、現在、コーデックス食品表示部会でも予防的アレルゲン表示についての議題が取り上げられています。「第105回コーデックス連絡協議会」(農林水産省)の「資料5-(2) 第 47 回 食品表示部会(CCFL)主な検討議題」(2023年5月開催)より、「第45回部会において(中略)予防的アレルゲン又は注意表示(PAL)に係るガイダンスを策定することで合意した」「PAL 使用に係るガイダンス原案については、FAO/WHO 合同専門家会議による議論の結果を待って策定作業を進める必要があるとされた」といった経緯を確認することができます。(その他、通常のアレルゲン表示の議題では木の実類の範囲について個別品目が明記されています)
なお、日本では「May Contain ○○」にあたるアレルゲンの可能性表示は禁止されており、コンタミネーション防止対策の徹底を図ってもなおコンタミネーションの可能性が排除できない場合は、注意喚起表記(例:「本品製造工場では○○を含む製品を生産しています。」)が推奨されているところです(「食品表示基準について」 別添 アレルゲンを含む食品に関する表示 第1-3-(5),(6))。
海外のこうした動向を見ると、品目毎の公定検査法と10㎍/gの閾値の設定、そして「判断樹」の運用など、日本のアレルゲン表示制度は世界的に見ても厳格であると、改めて気づくことができます。食品の海外輸出の実務においては、日本の制度を踏まえたうえで対象国との違いを確認することが求められるといえますので、国際的な動向を調査する際には、国内の制度についてあらためて確認できる機会にもしていただくとよいのでは思います。
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川合 裕之
■職歴・経歴
1974年 岡山県生まれ
食品メーカー勤務後、2003年に食品安全研究所(現株式会社ラベルバンク)を設立。
「分かりやすい食品表示」をテーマとし、「食品表示検査・原材料調査」などの品質情報管理サービスを国内から海外まで提供しています。また、定期的に講演活動も行っています。
■主な著作物・寄稿ほか
【共著】
『新訂2版 基礎からわかる食品表示の法律・実務ガイドブック』 (第一法規株式会社, 2023)
【寄稿】
・2024年 第65巻 第4号 『食品衛生学雑誌』(公益社団法人日本食品衛生学会)「海外輸出向け食品における各国基準(添加物、栄養成分表示)の調査と実務上の課題」
・2021年10月『Wellness Monthly Report』(Wellness Daily News)40号
「食品表示関連規則の改正状況 今後の『食品表示』実務上のポイント」
・2020年2月『月刊 HACCP』(株式会社鶏卵肉情報センター)「アレルゲン表示の現状と留意点」
・2017年~2018年連載 『食品と開発』(UBMジャパン)「表示ミスを防ぐための食品表示実務の大切なポイント~」
>> 寄稿の詳細はこちら
【講義】
・2009~2014年 東京農業大学生物産業学部 特別講師
■最近の講演・セミナー実績
・2024年4月11日 “低糖質、〇〇不使用、植物由来、機能性等” 健康に関する食品の輸入および輸出時の表示確認の実務について
アヌーガ・セレクト・ジャパン様主催。
・2023年12月21日 輸出食品における各国基準(添加物および食品表示等)調査と実務上のポイント
一般財団法人食品産業センター様主催。
・2023年11月9日 食品表示基準と実務上の大切なポイント~保健事項、衛生事項を中心に~
千代田保健所様主催。
・2023年11月8日 添加物の不使用表示について
株式会社インフォマート様主催。
・2023年10月12日~13日 海外輸出向け食品の表示(添加物、栄養成分等)について
公益社団法人日本食品衛生学会様主催。
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